この記事はここがポイント
- 為替介入に伴う円高リスクへの対策は、金利による客観的な損益分岐点の把握。
- 年利5%の米ドル定期預金で1ドル163円購入時の1年後損益分岐点は156.75円。
- 金利は為替レート下落時の損失を軽減するクッションであり、元本割れ防止の役割。
「円安対策として外貨建て資産を持つべきだ」という声が多く聞かれます。そのような情報を耳にして、まずは馴染みのある外貨預金から始めてみようと検討している方も多いのではないでしょうか。
一方で、ニュースで「為替介入で円急騰」といった報道を目にすると、「自分が買った途端に円高になったらどうしよう」と不安に感じるのは自然なことです。
為替リスクは確かに存在します。しかし、外貨預金が持つ「金利の力」を正しく理解し、客観的な数字に落とし込むことで、相場の変動に対して過度な不安を抱く必要はなくなります。
今回は、実際の相場変動を振り返りながら、金利が生み出す「損益分岐点(円高になっても元本割れしないライン)」について解説します。
2026年7月30日の為替介入「163円→157円」の急落をどう捉えるか
米ドル/円(USD/JPY)
直近、ドル円相場は163円台で推移しており、さらなる円安を想定する見方も少なくありませんでした。
しかし、2026年7月30日、為替介入と見られる動きがあり、一気に157円台まで急落しました。
わずか数日で6円ほど円高が進行したことになります。
1ドル163円のタイミングで外貨預金を始めて、「高値掴みしてしまった。やはり円のまま持っておけばよかった……」と後悔した方もいるかもしれません。
結果的に相場はまた160円台に戻りましたが、急落時の心理的な負担は決して小さくなかったはずです。
「数日で6円も動くなんて……」と驚かれるかもしれませんが、為替相場においてはこの程度の変動は十分に起こり得ます。
ちょうど1年前の2025年7月頃は「1ドル=147円台」でした。そこから163円まで上昇し、また157円へ下落しています。年間を通して10円〜20円の変動幅があることを前提に、余裕を持った資金計画を立てることが大切です。
金利5%の「損益分岐点」を計算してみる
では、163円で米ドルを購入した場合、少しでも円高になれば必ず損失が出るのでしょうか。
ここで重要になるのが、外貨建て金融商品の最大のメリットである「金利」の存在です。
たとえば、年利5%の米ドル定期預金(1年もの)に「1万ドル」預け入れたと仮定します。
163円の時に購入したため、初期投資額(元本)は163万円です。
1年後、5%の金利により500ドルの利息が発生します。
ここから日本の税金(20.315%)が引かれるため、税引後の手取り利息は約398ドルとなります。
元本と合わせると、1年後には保有する米ドルが1万398ドルに増えている計算です。
ここで注目すべきは、「1年後の1万398ドルを日本円に戻す際、元本の163万円を下回らないための為替レート」です。
163万円 ÷ 1万398ドル = 約156.75円
この「156.75円」が損益分岐点となります。
つまり、1年後に「1ドル=156.75円」であれば、為替差損が発生しても金利収入と相殺され、日本円ベースでの損益はプラスマイナスゼロになります。
一時的に157円台まで急落したとしても、1年間しっかりと保有を続ければ、金利の力によって元本割れを防ぐことができるのです。
金利というクッションが、下落時のリスクを軽減する
為替レートが140円から200円まで変動した場合の損益シミュレーションをグラフ化しました。
損益分岐点(1ドル163円×1万ドル×年5% 購入時)
156.75円を損益分岐点として、それより円安になれば利益、円高になれば損失が発生します。
180円まで円安が進んだ場合: 為替差益+金利収入で、約24万円のプラス
140円まで円高が進んだ場合: 為替差損が上回り、約17万円のマイナス
「140円まで円高になったら結局損をするではないか」と思われるかもしれません。
しかし、仮に金利のつかない状態で米ドルを保有していた場合、140円時点での損失額は約23万円に膨らみます。金利がつくことによって、損失額を約6万円分も軽減できているのです。金利が下落に対するクッションの役割を果たしていることが分かります。
今回のシミュレーションは為替レートそのもので計算していますが、実際には金融機関に支払う「為替手数料(スプレッド)」が発生します。一般的に、銀行の窓口で取引を行うと1ドルあたり片道1円(往復2円)ほどかかるケースがあり、これではせっかくの金利収入が目減りしてしまいます。取引コストを抑えるためには、同じ銀行でも手数料が優遇されるインターネットバンキングを活用したり、コストが低めに設定されているネット証券などを視野に入れ、取引チャネルを賢く選ぶことが大切です。
まとめ:感情的な売買を避け、客観的な「数字」を基準にする
今回は1年間の運用でシミュレーションしましたが、これを2年、3年と継続し、「複利(利息が利息を生む仕組み)」で運用した場合はどうなるでしょうか。保有するドルが加速度的に増えていくため、損益分岐点は150円、140円と段階的に下がっていきます。つまり、長期で保有するほど、円高に対する「防御力」が高まっていくのです。
為替相場は常に変動しており、時として予期せぬ急落を見せることもあります。
しかし、「金利」という確実性の高いリターンを計算に組み込むことで、「どこまで円高になっても耐えられるか」という明確な損益分岐点を導き出すことができます。
相場の動きに一喜一憂し、慌てて売却してしまうのは、投資において避けるべき行動の一つです。
外貨預金などの外貨建て資産を始める際は、今回のようにあらかじめシミュレーションを行い、客観的な数字に基づく運用方針を持っておくことが重要です。
【免責事項】
- 本記事は、特定の金融商品の勧誘や売買の推奨を目的としたものではありません。
- 投資には元本を割り込むリスクがあります。投資に関する最終的な判断は、必ずご自身の責任において行われるようお願いいたします。
三菱UFJ銀行・三井住友信託銀行で15年以上のキャリアを築き、自身も20年以上の投資経験を持つ。現在は株式会社モニクルリサーチが運営する『LIMO』でお金に関する記事を企画・執筆・監修中。
