毎月天引きされる社会保険料を見て、ご自身の老後に思いを巡らせる現役世代の方もいるでしょう。
50歳代である筆者はすでに両親の介護と看取りを経験しましたが、想像以上にかかる介護費用や、その後の単身生活の現実を目の当たりにし、「平均貯蓄額を知るだけでは万全な備えとはいえない」と身をもって感じています。
長寿化や物価高が進む今、どう備えるべきか。
この記事では、75歳以上世帯のリアルな家計収支や2026年度の年金動向を紐解きながら、私たちが「資産寿命」を延ばすための具体的なヒントをご紹介します。
75歳以上・無職世帯の平均貯蓄は2392万円
はじめに、75歳以上の夫婦世帯が保有する資産の状況を見ていきましょう。
総務省統計局が公表した『家計調査報告(貯蓄・負債編)―2025年(令和7年)平均結果―(二人以上の世帯)』によると、世帯主が75歳以上の無職世帯(二人以上)が保有する貯蓄の平均額は「2392万円」でした。
70歳代の貯蓄分布で見る「平均値」と「中央値」の乖離
「2392万円」という平均額はゆとりがあるように見えますが、一部の富裕層が平均を押し上げているため注意が必要です。
J-FLEC(金融経済教育推進機構)「家計の金融行動に関する世論調査 2025年」から「70歳代・二人以上世帯」のデータを見ると、実態がより鮮明になります。
- 平均:2416万円
- 中央値:1178万円
- 金融資産非保有(貯蓄ゼロ):10.9%
- 3000万円以上:25.2%
「中央値」は1178万円であり、平均貯蓄額とは大きな差があります。
また、貯蓄がまったくない世帯が約1割存在する一方で、3000万円以上の資産を持つ世帯が4分の1を占めるなど、同じ70歳代であっても世帯ごとの経済状況には大きなばらつきがあることがわかります。
シニア世帯の家計は毎月約2万7000円の赤字。支出のリアルな内訳
総務省の『家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要』を参照すると、75歳以上の無職・二人以上世帯の家計は、毎月平均で約2万7000円の赤字に。
これを踏まえた3つの留意点を見ていきましょう。
ポイント1:「ゆとりある老後」を目指す場合の不足額
まず、この赤字額はあくまで「平均的な日常生活」を送ることを前提とした数字であるという点です。
生命保険文化センターの『2025(令和7)年度 生活保障に関する調査』によると、「ゆとりある老後生活」を送るためには夫婦で月平均39万1000円が必要とされています。この水準の生活を目指す場合、不足額はさらに大きくなる可能性があります。
ポイント2:家計調査にはない「介護費用」一人あたり約2300万円のリスク
次に、家計調査の支出データには「介護関連の費用」が基本的に含まれていないという点も重要です。
株式会社LIFULL senior(LIFULL 介護)が2026年6月に発表した試算によれば、在宅介護を1年間経験した後に有料老人ホームへ5年間入居した場合、介護に要する費用は一人あたり「約2300万円(2295万6000円)」にのぼる可能性があるとされています。
特別養護老人ホームといった公的な施設に入居できれば費用をある程度抑えることも可能ですが、民間の施設を利用して合計で2000万円を超える費用がかかるケースも決して珍しくありません。
介護保険サービスを利用した場合でも、所得に応じて1〜3割の自己負担が発生します。
将来的な支出の増加をしっかりと見据え、家族間で事前に話し合っておくことが大切でしょう。
ポイント3:所得によって変わる後期高齢者医療の自己負担割合
3つ目のポイントは、「医療費の窓口負担」に関する制度です。75歳になると後期高齢者医療制度に加入し、医療費の窓口負担は原則として1割になります。
しかし、一定以上の所得がある世帯は「2割負担」、現役世代と同等の所得がある世帯は「3割負担」が適用されます。
この負担割合の違いが家計に与える影響も考慮しておく必要があるでしょう。
2026年度の年金額は4年連続プラス改定も、実質的には「目減り」
老後の資金計画を立てるうえで、基本となる最新の年金事情について確認しておきましょう。
公的年金の支給額は、物価や賃金の変動を反映して、毎年度見直しが行われる仕組みになっています。
2026年度の年金額は、前年度と比較して国民年金(基礎年金)が1.9%、厚生年金(報酬比例部分)が2.0%の引き上げとなりましたが、物価上昇率(3.2%)に届かず、実質的には目減りしています。
2026年度(令和8年度)における年金支給額の具体的な水準
2026年度の公的年金改定情報
- 国民年金(老齢基礎年金・満額):月額7万608円(前年度比+1300円)
- 厚生年金(夫婦2人分の標準的な年金額):月額23万7279円(前年度比+4495円)
※厚生年金の金額は、平均的な収入(賞与を含め月額換算で45万5000円)を得て40年間就業した夫と、その期間に専業主婦であった妻というモデル世帯を想定した支給額です。
働き方で変わる年金額。ライフコース別に見る5つの受給モデル
厚生年金の「月額約23万7000円」は昭和型の専業主婦世帯のモデル年金ですから、共働きやおひとりさまが増えた現代の実態とはズレがあります。
そこで、厚生労働省が公表した「多様なライフコースに応じた年金額(概算)」を参考に、現役時代の年金加入歴による5つのモデルを見ていきましょう。
ライフコースに応じた年金額
【モデル1】厚生年金中心の会社員男性の場合
- 想定:平均年収約610万円(月額換算50万9000円)で約40年間就業
- 年金月額の目安:17万6793円(基礎年金約7万円+厚生年金約10万7000円)
【モデル2】国民年金中心の自営業・フリーランス男性の場合
- 想定:厚生年金への加入期間が約7年と短く、大部分が国民年金
- 年金月額の目安:6万3513円
【モデル3】厚生年金中心でキャリアを築いた女性の場合
- 想定:平均年収約427万円(月額換算35万6000円)で33年間就業
- 年金月額の目安:13万4640円
【モデル4】国民年金中心の自営業女性の場合
- 想定:厚生年金への加入期間が約6年と短い
- 年金月額の目安:6万1771円
【モデル5】第3号被保険者期間が長い女性の場合
- 想定:扶養の範囲内でパートタイマーとして働いた期間が長い
- 年金月額の目安:7万8249円
就労した期間が同じくらいであっても、厚生年金に加入していたかどうかで、将来受け取る年金額には大きな差が生じます。
年に一度送られてくる「ねんきん定期便」や、いつでも加入記録を確認できる「ねんきんネット」などを活用して、ご自身の働き方に基づいた正確な年金見込額を把握しておくことが大切です。
老後資金計画で重要な「おひとりさま期間」への備え
老後の資金計画において「想定する期間の長さ」も気にしておきたいポイントです。
厚生労働省の「令和6年簡易生命表」によれば、現在65歳の平均余命は男性20年(85歳)、女性24年(89歳)。
90歳まで生きる確率も男性26%、女性50%と長寿化が進んでいます。
夫婦のどちらかが先立ち、長期間「おひとりさま」となるケースは多いため、80歳前後を前提とした計画では資金不足のリスクがあります。
また、単身になっても家賃や光熱費といった固定費は半減せず、相対的に負担が重くなる点にも注意が必要です。
資産寿命を延ばすために。「貯蓄額」よりも「持続期間」を意識した備えを
今後の老後資金計画において重要なのは、単純な貯蓄額以上に「手元の資産で何年生活できるか(資産寿命)」という視点です。
平均データに一喜一憂するのではなく、就労や運用による収入確保に加え、高額療養費や加給年金といった社会保障制度を正しく理解・活用し、自身のライフスタイルに合わせた総合的なプランを立てることが豊かなシニアライフの第一歩となります。
参考資料
早大卒。証券外務員二種・相続診断士。15年の書籍校閲で培ったファクトチェック力を武器に、一次資料に基づく「お金と暮らし」の分析記事を担当する編集記者。認知症介護経験をいかし、読者目線に立った情報発信も。
