近鉄グループホールディングスが、個人投資家向け無担保社債(第135回無担保社債)の発行に向けた準備を進めています。年2.150〜2.750%(税引前)の仮条件を提示して需要を探っており、利率は7月9日に正式に決定される予定です。
直近では日本銀行が追加利上げを実施するなど、金利環境が大きく変化するなかで、社債は預貯金以外の資産運用の選択肢として個人投資家からも関心を集めています。
本記事では、「近鉄債」の仮条件を確認するとともに、先行銘柄である「名鉄債」との比較を通じて、投資判断のポイントなどについて解説します。
そもそも「社債」とは?
社債とは、企業が事業資金を調達するために発行する債券(有価証券)のことです。投資家から見ると「企業にお金を貸す」という形式になります。
株式とは異なり、あらかじめ「満期(償還期日)」と「利率」が決められて発行されるのが特徴です。発行体が破綻しない限り、満期を迎えると額面金額(元本)が払い戻され、保有期間中は定期的に利息を受け取ることができます。
一般的に、国債よりもリスクが高い分、金利が高めに設定される傾向があります。
社債投資を検討するうえで、絶対に知っておくべきなのは、国債とは異なり、社債は「中途換金による元本割れリスク」があることです。
個人向け国債は、発行後1年が経過すれば、国がいつでも額面金額(元本)で買い取ってくれるため元本割れがありませんが、社債を途中で換金したい場合は「市場(中途売却)で売却」することになります。
債券は、証券会社が提示するその時の引き取り価格(時価)に従うことになるため、市場金利が上昇して債券の価値が下がっているタイミングで売却すると、購入時の金額を下回り、元本割れするリスクがあります。
満期まで保有すれば元本が戻ってきますが、途中で解約する可能性がある資金の場合は、このリスクの違いに注意が必要です。
近年は個人向け社債の発行が増加傾向に
本来、社債は主に銀行や保険会社などの機関投資家向けに発行されるものであり、市場で流通する新発債は最低投資金額が「1億円」単位のものが中心となっています。
しかし、近年の証券市場の成熟やネット証券の台頭・普及に伴い、販売対象の裾野は個人投資家層へと少しずつ拡大してきました。
現在準備中の近鉄債のように、個人が投資しやすい10万円単位などから購入できる銘柄が増加しています。
さらに、足元の金利上昇圧力が強まるなか、債券の価格変動リスクへの対応として、発行体(企業)側にとっても自社債の安定的な消化を支えてくれる新たな投資家層の開拓は重要な課題となっています。
このような背景から、従来は機関投資家向けの大口発行のみを行っていた企業が、流動性の確保やファン層の拡大を目指して、初めて個人向けの社債発行に踏み切る動きも出てきています。
背景にある「機関投資家」と「個人投資家」のスタンスの違い
企業が個人向け社債に注力する背景には、足元の金利環境における「機関投資家」と「個人投資家」の投資スタンス(目的)の違いがあります。
現在のように金利に先高感(今後さらに金利が上がる見通し)がある局面では、債券価格の下落(金利上昇=債券価格下落)が予想されます。
日々時価評価を行う機関投資家にとっては、購入後に「評価損」を抱えるリスクが高まるため、新発社債の買い控えや、より慎重な姿勢を強める傾向があります。
一方で、多くの個人投資家は「満期までの保有(満期一括償還)」を前提として社債を購入します。
途中で売却しない限り、日々の時価の変動や評価損は実質的な損失にはならないため、金利上昇局面であっても投資判断への影響は相対的に小さくなります。
発行体と個人投資家の「win-win」の構図
こうした投資行動の違いは、発行体(企業)と個人投資家の双方にとってメリットを生む背景となっています。
- 発行体(企業)側のメリット:時価評価を警戒する機関投資家だけでなく、満期保有を前提とする安定的な資金出し手(個人投資家)を確保することで、金利変動リスクに左右されにくい地盤を作ることができます
- 個人投資家側のメリット:金利上昇局面に伴い、社債の利回り妙味がかつてないほど高まっており、従来の預貯金等と比較して効率的な利息収入(インカムゲイン)を得る機会が生じています
このように、時価変動を懸念する市場環境において、安定的な資金調達を志向する企業と、上昇した利回りを確実に享受したい個人のニーズが合致する形で、個人向け社債の市場が活性化しつつあると言えます。
フィスコなどの金融専門誌出身。10年以上にわたり日経QUICKやブルームバーグ等で機関投資家向けの債券市場記事を執筆。企業調査レポートや決算などIR情報の発信に精通し、現在は経済メディア『LIMO』編集部で記事を執筆。
