AIやデータセンター関連銘柄への関心が世界中で高まるなか、「AI銘柄」と聞いて多くの人が真っ先に思い浮かべるのは、NVIDIAやIntelといったチップメーカーではないでしょうか。
しかし、実は半導体というものは膨大な工程の分業で成り立っており、その材料や製造装置の裾野には、世界シェアを圧倒的に握る日本企業が数多く存在しているという意外な事実があります。
では、一体どの工程を、どの企業が、どのような立ち位置で担っているのでしょうか。元機関投資家の泉田良輔氏が、半導体のバリューチェーンを川上から川下まで整理し、日本株に潜む投資機会の切り口を解説します。
この記事のポイント
- 半導体製造は「前工程」と「後工程」に分かれ、膨大な工程を専門企業が担う分業体制である
- チップメーカーになれなくても、製造装置や材料の分野で世界を牽引する日本企業が多数存在する
- 特定の工程で高いシェアを持っていても、全社業績への寄与度は企業によって大きく異なる
- 投資においては、決算資料を読み解き、その事業の「専業度・寄与度」を見極めることが重要である
- 誰もが面倒だと感じるボトムアップのリサーチにこそ、優良銘柄に出会うチャンスが隠されている
半導体製造は「分業」の極み。バリューチェーン全体を俯瞰する
私たちが普段使っているスマートフォンやパソコン、そして最先端のAIを動かすデータセンターに至るまで、あらゆる電子機器の心臓部には半導体が組み込まれています。しかし、この半導体は1つの企業が最初から最後まで単独で作り上げているわけではありません。
半導体の製造プロセスは、大きく「前工程」と「後工程」に分かれており、それぞれの工程で高度な専門技術を持つ企業がリレーのようにバトンを繋いでいく「バリューチェーン(価値連鎖)」が形成されています。
泉田氏によれば、半導体を作るプロセスは非常に複雑で、長大な工程を経る必要があるといいます。
「半導体って、シリコンウェハーの上に基板を形成していってそこに薬品をつけて削ったりっていうのを繰り返す作業をしていくんだけど、そこで必要なプロセスがある」
この言葉の通り、ベースとなる円盤状のシリコンウェハーに微細な回路を描き、不要な部分を削り取り、洗浄し、最終的に切り分けてパッケージングするという一連の作業には、数え切れないほどの専門的な製造装置や材料が必要です。
ここで読者の皆様に知っていただきたいのは、半導体産業において「チップそのものを作るメーカー」だけが主役ではないということです。NVIDIAやIntel、あるいは製造を請け負う台湾のTSMCといった企業は確かに目立ちますが、彼らもまた、優れた製造装置や高品質な材料がなければ最先端のチップを作ることはできません。
そして、この「装置」や「材料」の領域において、日本の企業は世界的に見ても極めて重要なポジションを占めています。特定の分野では、日本企業抜きには世界の半導体製造が立ち行かないほどのシェアを握っているケースも珍しくありません。
半導体バリューチェーンの全体像
「日本企業には最先端のチップメーカーがないから、AIブームの恩恵を受けられないのではないか」という疑問が投げかけられると、泉田氏は明確にそれを否定します。
「チップメーカーにはなれなくてもそこにビジネスチャンスがあって利益とか売上を拡大できる企業はいっぱい多い」
つまり、NVIDIAのような企業になれなくても、NVIDIAのチップを作るために不可欠な装置や材料を供給することで、大きなビジネスチャンスを掴んでいる日本企業が多数存在するのです。株式投資の視点から見れば、こうしたバリューチェーンの裏側を支える「黒衣(くろご)」のような企業群にこそ、魅力的な投資機会が眠っていると言えるでしょう。
前工程の要「露光(リソグラフィ)」と微細化の鍵
半導体の製造プロセスのうち、シリコンウェハー上に電子回路を形成していく段階を「前工程」と呼びます。この前工程の中で、最も重要かつ技術的なハードルが高いとされるのが「露光(リソグラフィ)」という工程です。
露光とは、簡単に言えばウェハーの上に回路の設計図を転写する作業です。泉田氏はこの工程を、私たちが日常的に知っているある作業に例えて説明します。
「回路を書く時に薬液をつけて、光を当てて露光するんですよ」
つまり、写真の現像と同じ原理です。感光性の薬品(フォトレジスト)を塗ったウェハーに対して、回路パターンが描かれたフォトマスク越しに特殊な光を当てることで、ナノメートル(10億分の1メートル)単位の極めて微細な回路を焼き付けていきます。現代の半導体の性能向上は、この回路の線をいかに細くできるか(微細化)にかかっており、露光装置はその微細化を実現するための「キーエクイップメント(鍵となる装置)」として位置づけられています。
この極めて重要な露光装置の市場において、圧倒的な力を持っているのがオランダの企業「ASML」です。
「EUVとか液浸みたいな高度の技術になればなるほど、このASMLが強くてさらに牛耳ってます」
泉田氏が指摘するように、現在最先端の半導体製造に不可欠となっている「EUV(極端紫外線)」露光装置や、それに次ぐ「液浸」露光装置の分野において、ASMLは事実上、世界で唯一に近い独占的な地位を築いています。
最先端のAIチップを作るためにはASMLの装置が絶対に必要であり、世界中の半導体メーカーが同社の装置を求めて列をなしている状態です。
一方で、日本のメーカーはどうでしょうか。カメラやレンズの技術に強みを持つ日本の「ニコン」や「キヤノン」も、かつては半導体露光装置の分野で世界をリードする存在でした。しかし、現在では最先端のEUV露光などの領域において、ASMLに対して存在感を低下させてしまっているのが実情です。
事業としては継続しているものの、投資の観点から最先端の微細化トレンドを追う場合、露光装置の分野では「ほぼASML一強」という前提でリサーチを進める必要があると泉田氏は分析しています。
前工程の製造装置マップ(露光・成膜・エッチング・洗浄・検査)
「成膜・エッチング・洗浄」工程を担う主要プレイヤー
露光によってウェハー上に回路のパターンを焼き付けた後、次に行われるのが「成膜」「エッチング」「洗浄」という一連のサイクルです。
まず、ウェハーの表面に必要な物質の薄い膜を作るのが「成膜」です。次に、露光で光が当たった部分(または当たらなかった部分)の膜を薬品やガスを使って削り取り、実際の溝や回路の形を作るのが「エッチング」です。そして、エッチングによって生じた不要な削りカスやゴミを綺麗に洗い流すのが「洗浄」工程となります。
半導体は、この「膜をつけて、露光して、削って、洗う」というサイクルを何十回、何百回と繰り返すことで、複雑な立体構造の回路を形成していきます。そのため、これらの工程を担う製造装置の需要は非常に大きく、世界的な巨大企業がしのぎを削る主戦場となっています。
この領域で世界的に大きなシェアを持っているのが、アメリカの「アプライドマテリアルズ(AMAT)」や「ラムリサーチ」といった巨大な半導体製造装置メーカーです。彼らは幅広い工程の装置を手がけており、世界の半導体工場の至る所でその装置が稼働しています。
しかし、この分野でも日本企業は決して負けていません。日本を代表する半導体製造装置メーカーである「東京エレクトロン」は、成膜やエッチングをはじめとする幅広い前工程の装置で世界トップクラスのシェアを誇っています。
また、「SCREEN(スクリーン)」は、ウェハーを洗ってゴミを取り除く洗浄装置の分野において、世界1位のシェアを握る圧倒的な存在です。
半導体の回路が微細になればなるほど、目に見えない極小のゴミ一つが致命的な欠陥を引き起こすため、洗浄技術の重要性はますます高まっています。このように、アメリカの巨大企業と肩を並べ、あるいは特定の工程で世界首位に立つ日本企業が存在するという事実は、半導体バリューチェーンを俯瞰する上で非常に重要なポイントです。
品質を担保する「検査・測定・テスト」と研磨
前工程で微細な回路を作り上げていく過程では、常に「正しく作られているか」を確認する必要があります。ナノメートル単位の世界では、わずかなズレや欠陥が製品の歩留まり(良品率)を大きく左右するためです。そこで活躍するのが、「検査・測定・テスト」を行う装置群です。
この分野でも、世界のトッププレイヤーとして君臨する日本企業があります。それが「アドバンテスト」です。同社は、完成した半導体チップが設計通りに動作するかを確認するテスト装置(テスタ)の分野で世界1位のシェアを持っています。AIチップのような極めて複雑で高性能な半導体は、テストにかかる時間も長く、より高度なテスト装置が求められるため、アドバンテストの技術が不可欠となっています。
海外勢としては、検査装置の分野でアメリカの「KLA」や、テスタ分野で世界2位のアメリカ「テラダイン」といった企業が存在感を放っています。
また、ウェハーの上に膜を重ねていく過程では、表面を極めて平坦に磨き上げる「研磨」という作業が必要になります。少しでも凹凸があると、その上に次の回路を正確に描くことができないからです。
この研磨を行う装置(CMP装置)の分野では、日本の「荏原(荏原製作所)」が世界的なシェアを持っています。さらに、回路の線幅やパターンの寸法が正確に作られているかを測る測定器の分野では、「日立ハイテク」(現在は非上場)といった日本企業が活躍しています。
このように、半導体を「作る」装置だけでなく、その品質を「測り、確かめ、整える」装置の分野にも、世界をリードする日本企業がしっかりと根を張っているのです。
「ダイシング・研削・封止」工程で圧倒的な日本勢
ウェハー上に無数の半導体チップが形成された後、それらを1つ1つのチップに切り離し、最終的な製品の形に組み立てていく工程を「後工程」と呼びます。かつて後工程は、前工程に比べて技術的な難易度が低く、労働力の安い地域で行われる組み立て作業と見なされがちでした。しかし現在、AIチップの進化に伴い、この後工程の重要性が劇的に高まっています。
その背景にあるのが、「CoWoS(チップ・オン・ウェハー・オン・サブストレート)」などの最先端のパッケージング技術や、「HBM(広帯域メモリ)」と呼ばれる高性能メモリの組み立て技術です。これらは、複数のチップを縦に積み重ねたり、横に高密度で並べたりすることで、半導体全体の性能を飛躍的に引き上げる技術です。
この高度化する後工程において、日本企業は圧倒的な強さを見せています。
まず、完成したウェハーを極限まで薄く削り(研削)、1つ1つのチップに切り分ける(ダイシング)工程です。チップを縦に何層も積み重ねるためには、チップ自体を紙よりも薄く削る必要があります。この「切る」「削る」という技術において世界首位に君臨しているのが、日本の「ディスコ」です。AI向けのHBMや最先端パッケージの仕上げには、ディスコの装置が欠かせません。また、同じく精密な測定や切断技術を持つ「東京精密」もこの分野で知られています。
切り出されたチップは、外部からの衝撃や湿気から守るために樹脂などでパッケージングされます。これを「封止(モールド)」と呼びますが、この封止モールド装置の分野で世界シェアの6割超を握っているのが、日本の「Towa(トーワ)」です。
さらに、チップ同士を極めて微細な間隔で接続する「ハイブリッド接合(TCB)」と呼ばれる最先端のパッケージ向け接合装置の分野では、「芝浦メカトロニクス」という日本企業が展開しています。
前工程から後工程に至るまで、半導体製造のバリューチェーンを辿っていくと、要所要所で日本企業が高いシェアを握っていることが分かります。AIの進化を支える物理的な土台は、こうした日本の装置メーカーの技術力によって支えられていると言っても過言ではありません。
後工程(先端パッケージング)の製造装置マップ
投資に活かす「専業度」の見極めとリサーチの価値
ここまで、半導体の製造装置や検査機器の分野で活躍する企業を見てきました。さらにバリューチェーンを掘り下げていくと、ウェハーそのものを作る「信越化学」や「SUMCO」、回路を描くための感光材(フォトレジスト)で世界首位の「東京応化工業」、絶縁フィルム(ABF)で世界シェア約95%を握る「味の素」、さらには基板の土台(BT材)で世界シェア約8割を持つ「三菱ガス化学」など、材料や部品の分野でも日本企業が世界を席巻していることが分かります。
しかし、株式投資の観点からこれらの企業を見る際、泉田氏は非常に重要な注意点を指摘しています。それは、その企業にとって半導体関連事業が「どれくらいの比重を占めているか」という点です。
「どの会社も事業の一部であってそれがメインではないからそこでの需要がいくら大きくなろうとそこまで株式の寄与には低い」
例えば、ある化学メーカーが最先端の半導体材料で世界トップシェアを持っていたとしても、会社全体の売上の大半を汎用的な化学品が占めている場合、半導体材料の売上が2倍に伸びたところで、会社全体の利益や株価に与えるインパクトは限定的になってしまいます。
一方で、事業のほとんどが半導体関連である「専業度」の高い企業であれば、半導体市場の成長がダイレクトに業績の拡大に直結します。投資家としては、「AI半導体に関わっているか」だけでなく、その事業が全社の売上や利益にどれだけ寄与しているのかを冷静に見極める必要があります。
その寄与度を確認するための有効なツールが、各企業が四半期ごとに発表する「決算短信」や「決算説明会資料」です。現在はAIや半導体への注目度が高いため、企業側も「自社の半導体関連事業がどれくらいの規模なのか」を資料の中で積極的にアピールする傾向があります。これらの一次情報にあたることで、ニュースの表面的なイメージに流されない、精度の高い投資判断が可能になります。
また、泉田氏は株式市場における「上場」の価値についても触れています。かつて半導体材料で有名だったJSRや、ICパッケージ基板で知られる新光電気工業は、ファンド(JIC)の傘下に入り非公開化(上場廃止)の道を歩みました。東芝も同様に非上場となっています。
「上場して我々が取引できること自体が素晴らしいんですよ」
どんなに優れた技術を持つ企業でも、未上場であれば一般の投資家は投資することができません。私たちがバリューチェーンを調べ、有望な企業を見つけ出し、そこに投資できるのは、その企業が上場市場にとどまってくれているからこそなのです。
半導体のバリューチェーンは非常に長く、関わる企業も多岐にわたります。1社1社の事業内容や、全社業績への寄与度を調べていく作業は、決して簡単なものではありません。
誰もが知っている有名なチップメーカーの株を買うだけでなく、その裏側で必須の装置や材料を供給している「専業度の高い」優良企業をボトムアップで探し出す。これこそが、機関投資家が実践しているリサーチの真髄であり、個人投資家にとっても大きなリターンを狙えるチャンスの源泉なのです。
AIという巨大なトレンドの中で、半導体産業は今後も長期的な成長が見込まれています。今回解説した「前工程・製造装置・検査」のバリューチェーンを地図として活用し、ぜひご自身の手で決算資料を読み解き、次なる成長銘柄を探し出してみてください。
参考資料
- AIサプライチェーン カオスマップ資料
- YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
※リンクは記事作成時点のものです。
免責事項
- 本記事は一般的な情報提供のみを目的としており、特定の株式の購入や売却について助言や推奨するものではありません。
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株式会社モニクルリサーチ代表取締役。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。元機関投資家。フィデリティ投信や日本生命で日本株式や米国株式の証券アナリストやファンドマネージャーとして勤務。東京科学大学大学院非常勤講師。
