この記事はここがポイント
- ホンダの連結利益は四輪事業でなく、二輪と金融サービス事業が牽引する収益構造
- 2026年3月期は四輪事業が1兆4,111億円の営業損失、二輪事業は7,319億円の営業利益を計上
- 四輪事業の赤字は、電動化投資見直しによる6,920億円の減損損失が背景
ホンダ<7267>と聞いてまず思い出すのは、たいてい四輪車だろう。私も長いあいだ、この会社を自動車メーカーとして見てきた。だが2026年3月期のセグメント別の数字を並べると、その像は揺らぐ。利益をどこで稼いでいるのかという問いに、四輪事業は答えを返してくれない。 ※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。
四輪の営業損失と二輪の利益率18.2%が、同じ期に並んだ
ホンダ(7267)の2026年3月期通期は、売上収益21兆7,966億円で前期比+0.5%とほぼ横ばいだった。
一方で営業損益は▲4,143億円の損失に転じた。前期の営業利益1兆2,134億円からの反転である。
当期利益(親会社の所有者に帰属)も▲4,239億円、1株当たりでは▲106.06円となった。ROE(自己資本利益率)は▲3.5%である。
数字の並びだけを追えば、会社全体が沈んだ期に見える。
ところがセグメント別に開くと、話が変わる。四輪事業は営業損失▲1兆4,111億円、営業利益率▲10.2%。これに対して二輪事業は営業利益7,319億円、利益率18.2%を稼いでいる。
金融サービス事業も営業利益2,755億円、利益率7.8%を確保した。二輪と金融サービスの二つを合わせれば1兆74億円になる。
連結の赤字は、四輪事業の損失がこの二つの黒字を飲み込んだ結果だ。
自動車メーカーは規模の産業で、台数が利益を生む、という見方をされることが多い。だが同じ会社の中で、売上収益の6割超を占める四輪が損失を出し、2割弱の二輪が二桁の利益率を残した。規模と収益性が同じ方向を向いていない。
売上の2割弱が利益の柱になる。セグメント別に見た資本の重さの違い
2026年3月期の売上収益をセグメント別に分けると、四輪事業が13兆8,633億円で構成比63.6%、二輪事業が4兆188億円で18.4%、金融サービス事業が3兆5,294億円で16.2%となる。
構成比だけなら、たしかに四輪の会社だ。だが利益の出方はまるで違う。
二輪事業の売上収益は前期比+10.8%、営業利益は+10.3%と、増収増益で伸びた。四輪事業の売上収益は▲2.2%と縮んでいる。
ここで効いているのは、稼ぐために必要な資本の重さの差だろう。四輪事業は当期の設備投資に8,790億円を投じ、減価償却費は6,012億円を計上した。それでも営業損益は赤字だった。
二輪事業の設備投資は1,359億円、減価償却費は743億円である。四輪事業の6分の1から7分の1の投資規模で、7,319億円の営業利益を出している。投下する資本1単位が生む利益が、二つの事業でまるで違う。
利益率18.2%という水準は、輸送用機器業種の営業利益率の中央値5.3%と比べて3倍を超える。業種の平均像から大きく外れた収益性が、この会社の中に組み込まれている。
金融サービス事業の性格も押さえておきたい。この事業は自社製品に関わる販売金融とリースを担う部門で、営業利益率7.8%は二輪ほど高くない。それでも営業利益2,755億円は、四輪の損失を埋める側に回っている。
もっとも、金融サービス事業は資産を抱えて稼ぐ事業でもある。当期の設備投資2兆7,661億円、減価償却費9,588億円はセグメントの中で最も大きい。オペレーティング・リース資産(顧客に貸し出す車両などを自社の資産として持つ形態)を積み上げて利益を得る構造で、二輪の軽さとは意味が違う。
つまりホンダの利益は、性格の異なる二つの黒字で支えられている。資本が軽く利益率の高い二輪と、資本が重く利益を積み上げる金融サービスだ。
四輪の赤字はどこから来たのか
四輪事業の損失の背景には、電動化に向けた投資判断の見直しがある。
2026年3月期の減損損失は連結で6,920億円に達し、前期の393億円から一気に膨らんだ。
2027年3月期1Qの短信には、前年度に北米で生産予定だったEV(電気自動車)モデルの上市および開発の中止を決定したこと、当年度に取引先への影響を把握する調査を開始したことが記されている。エアバッグインフレーターに関連した市場措置も、引当金の対象として続いている。
将来に向けた計画の縮小が、会計上の損失として一度に表に出た期だったと読み取れる。
過去5期で見る、利益水準の振れ幅
時間軸を伸ばすと、この会社の利益が思っていたよりも振れていることが分かる。
営業利益は2022年3月期8,712億円、2023年3月期7,807億円、2024年3月期1兆3,819億円、2025年3月期1兆2,134億円と推移し、2026年3月期に▲4,143億円へ落ちた。
一方で売上収益は2022年3月期の14兆5,526億円から5期で5割近く増えている。売上は積み上がったのに、利益は同じようには積み上がらなかった。
二輪の利益率が高いこと自体は今期に始まった話ではない。目立つようになったのは、四輪の利益が消えたからだ。
2027年3月期1Qで四輪は黒字に戻った。それでも利益で上回るのは二輪
直近の2027年3月期1Qは、様子が変わっている。
売上収益は6兆615億円で前年同期比+13.5%、営業利益は5,307億円で+117.4%。税引前利益6,050億円(+107.0%)、四半期利益(親会社の所有者に帰属)4,509億円(+129.3%)と、いずれも倍増前後の増益となった。
会社の説明によると、増収は金融サービス事業と二輪事業の増加、および為替換算による増加影響などによるもので、営業増益は前年同期のEV関連損失の影響や関税影響などによる。前年同期に一時的な損失が乗っていた反動が、増益率を押し上げた形だ。
セグメント別に見ると、四輪事業の営業利益は1,921億円。前年同期の▲296億円から黒字転換した。
それでも同じ四半期の二輪事業の営業利益は2,339億円で、四輪を上回っている。売上収益は四輪が3兆8,791億円、二輪が1兆1,411億円で、3.4倍の差がある。売上で3倍以上の開きがありながら、利益では二輪が多い。
二輪事業の1Qの営業利益率は20.5%まで切り上がった。四輪事業は5.0%、金融サービス事業は営業利益1,058億円で10.3%である。
通期予想は売上収益24兆1,500億円(+10.8%)、営業利益6,500億円、当期利益4,000億円。1Qの営業利益は通期予想に対して8割を超える進捗、当期利益は1Qだけで通期予想を上回る進捗となっている。会社計画がかなり保守的に置かれていると考えられる。
年間配当は前期と同じ70円を予想する。赤字となった2026年3月期も、その前の期の68円から70円へ引き上げていた。
昨秋以降の株価は、この構造をどこまで映しているのか
株価の動きも並べておきたい。2025年9月末の終値は1,500円台で、そこから今年2月末まで、月末終値はおおむね1,500円台で推移した。
動いたのは2026年3月末である。1,200円台まで大きく下押しし、4月末もその水準にとどまった。
そこから緩やかに切り上がり、5月末と6月末は1,400円台、7月末は1,600円台へ。2025年9月末以降の月末終値では、7月末が最も高い水準にあたる。2026年8月時点の終値は、そこからさらに一段上の水準にある。
昨秋から3月末までの下押しと、その後の戻り。何が意識されたのかを断定はできない。ただ時期の並びを追えば、四輪事業の損失が数字として確定していく局面で株価は低い水準にあり、四輪の黒字転換と二輪の利益が表に出た局面で水準を切り上げている、という対応関係は読み取れる。
自己資本比率は2026年3月期末で35.3%と、輸送用機器業種の中央値53.2%を下回る。ただしこの会社は販売金融をグループ内に抱えており、金融事業の資産と負債が連結の貸借対照表に乗る。事業会社単体の物差しをそのまま当てるのは無理があるだろう。
営業活動によるキャッシュ・フローは2026年3月期に1兆1,352億円で、前期の2,921億円から大きく回復した。会計上の損失と現金の出入りが同じ方向を向いていない期でもあった。
筆者コメント
セグメント別の設備投資額と営業利益を同時に並べると、この会社の見え方が変わってくる。
投資の重心は四輪に置かれ、利益の重心は二輪にある。同じ会社の中で、資本を最も食べる事業と、資本1単位あたりで最も稼ぐ事業が別々に立っている。
それでも会社の像が四輪に寄り続けるのは、売上構成比という最も目に入りやすい物差しが四輪を指すからだろう。資本の重さは決算書を開かないと見えない。この見え方のずれが、イメージが更新されない理由の一つではないだろうか。
もっとも、軽い資本で高い利益率を出す構造は、需要の重心が動けば同じ軽さで揺らぐ可能性もある。二輪の利益率の高さをそのまま安心材料として置くのではなく、その利益がどの地域のどの需要に支えられているかまで下りて見たい。
事業ポートフォリオを見るときは、売上構成比だけでなく、その事業がどれだけの資本を使って利益を出しているかを確かめる癖をつけることをおすすめしたい。
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オリックスなどの国内金融機関出身。日本株アナリストおよび財務アドバイザーとして決算分析や資金調達を主導。「日経CNBC」出演などメディアを通じた相場解説の実績も豊富。企業財務に精通し、現在はモニクルリサーチで金融ニュースの深掘り記事を発信。
