この記事はここがポイント
- LIFULLの3Q累計、当期利益▲52%は前年一過性利益反動で営業増益。
- 過去5期で売上減、営業利益倍増、利益率13.6%に改善し利益重視経営。
- 稼ぎを情報サイト外の投資不動産等へ振り向け開始、バランスシートに変化。
決算の見出しだけを追うと、判断を誤ることがある。利益が半分になったと書かれていれば、たいていの人は身構えるだろう。LIFULL<2120>の2026年9月期3Q累計は、まさにその形をしている。ところが同じ短信のなかで、会社は通期の営業利益予想を引き上げた。数字のどこにねじれがあるのかを見ていこう。 ※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。
当期利益は半減、営業利益は増益。3Q累計に生じたねじれ
2026年9月期3Q累計の売上収益(IFRS)は219億円で前年同期比+4.4%、営業利益は32億円で同+7.9%だった。税引前四半期利益は33億円で同+11.5%と、営業利益よりも伸びが大きい。
一方、親会社の所有者に帰属する四半期利益は21億円で前年同期比▲51.8%である。増収増益なのに最終利益が半分になる。
答えは前年同期の中身にある。短信の損益計算書によれば、前年同期には非継続事業からの利益が29億円計上されていた。
継続事業だけを取り出すと、四半期利益は前年同期の14億円から今期は21億円へ増えている。最終利益の半減は、前年に一度きりの利益が乗っていたことの反動だと読み取れる。
会社の見通しも、この読み方を裏づける。2026年9月期の通期予想は、上期の開示時点では売上収益297億円・営業利益30億円・当期利益19億円だった。
3Q累計の開示では、これが売上収益293億円・営業利益39億円・当期利益25億円へ置き換わっている。売上の見通しをわずかに下げ、利益の見通しを大きく上げた形だ。
増収率を追わずに利益を取る。この選択が費用の側でどう成立しているのかが、この決算の本題になる。
売上原価11億円に販管費175億円。稼ぎ方が費用の置き場所を決める
3Q累計の売上原価は11億円しかない。売上収益219億円に対する売上総利益は208億円で、売上総利益率は94.6%に達する。
サービス業という区分には事業モデルの違う会社が同居しているので、中央値そのものに意味を求めすぎるのは危うい。それでも同区分の売上総利益率の中央値が37.6%であることを踏まえると、原価の置き場所が根本的に違うと分かる。
不動産や住宅の情報サイトは、物件情報を並べる場を用意し、掲載する側から料金を得るモデルだ。物を仕入れるわけではないから、原価にはほとんど何も乗らない。
代わりに費用のほぼ全部が販売費及び一般管理費へ集まる。3Q累計の販管費は175億円で、前年同期の168億円から増えた。営業利益率は14.7%、前年同期は14.3%である。
では販管費の中身は何か。2025年9月期の有価証券報告書の内訳を見ると、従業員給付費用が81億円、広告宣伝費が80億円。この二つで販管費の大半を占める。ほかは手数料が27億円、減価償却費及び償却費が11億円だった。
人と広告。この二つが費用の柱だという事実は、利益率の作り方にそのまま直結する。どちらも経営の裁量で増減させやすい費目だからだ。
実際、従業員数は2023年9月期の1,504人から2025年9月期には918人へ減った。同じ期間に販管費は302億円から226億円へ縮んでいる。
ただし足元の四半期は、費用が先に出ている。2026年4月から6月の3か月だけを取ると、売上収益70億円に対して営業利益は8億円で、前年同期の11億円から減った。この3か月の販管費は52億円から58億円へ増えている。
累計では増益、四半期単体では減益。この二層は、絞り込みの局面が一巡し、費用を再び使いに行く局面へ移りつつあることを示しているのかもしれない。
稼ぎ手の偏りも見ておきたい。短信の報告セグメントは「HOME'S関連事業」の一本で、不動産・住宅情報サイトの「LIFULL HOME'S」や不動産投資と収益物件の情報サイト「健美家」などが含まれる。
このセグメントの3Q累計の売上収益は200億円、セグメント利益は36億円だった。一方、報告セグメントに含まれないその他の事業は、売上収益19億円でセグメント損失▲4億円である。
その他の赤字は前年同期の▲2億円から広がった。主力が稼ぎ、周辺が食う構図はまだ解けていない。利益率の改善が全社に均等に効いているわけではない、ということだ。
売上収益364億円から281億円へ。規模を落として利益率を上げた5期
視点を5期に広げると、この会社の変形がはっきり見える。
2021年9月期は売上収益358億円で営業損失▲66億円。この損失には97億円の減損損失が含まれており、この期が5期の底にあたる。
2022年9月期は売上収益357億円・営業利益16億円、2023年9月期は売上収益364億円・営業利益18億円だった。2023年9月期の営業利益率は5.1%である。
そこから売上が減る。2024年9月期の売上収益は263億円へ落ち込み、それでも営業利益は30億円へ増えた。
2025年9月期は売上収益281億円・営業利益38億円。営業利益率は13.6%まで上がり、当期利益は53億円、ROE(自己資本利益率)は21.2%となった。同区分のROEの中央値は8.6%である。
売上が2割以上減るあいだに、営業利益は倍以上になった。規模を追う経営から利益率を取る経営へ、明確に舵を切ったことが数字に現れている。
その過程で連結の姿も入れ替わった。のれんは2023年9月期末の163億円から2025年9月期末には3億円まで縮んでいる。2024年9月期は営業利益30億円ながら当期損失▲84億円で着地しており、整理の負担がこの期に集中した形だ。
バランスシートに現れはじめた別の顔
情報サイトを運営する会社と聞けば、資産をほとんど持たない軽い会社を思い浮かべるのが普通だろう。ところが足元の貸借対照表は、その像から外れ始めている。
2026年6月末の投資不動産は54億円、有形固定資産は50億円で、前期末の31億円から増えた。借入金は流動と非流動を合わせて97億円ある。
3Q累計の投資活動によるキャッシュ・フローは▲38億円で、うち有形固定資産及び投資不動産の取得による支出が▲22億円を占めた。営業活動によるキャッシュ・フローは35億円である。
現金及び現金同等物は101億円で、借入金97億円とほぼ見合う。自己資本比率は65.8%で、サービス業の中央値54.3%より厚い。
稼いだ現金を、情報サイトの外側にある資産へ振り向けはじめている。そう読める動きだ。手元資金を厚く抱えたまま借入で不動産を持つ形になっているので、資本の使い方としてどこに落ち着かせるつもりなのかは、次の論点になるだろう。
株価は160円台から240円台へ。市場が織り込みはじめたもの
株価は長いあいだ、この構造転換に反応していなかった。2025年9月末の終値は200円台で、11月末には165円まで下押しした。昨秋以降の月末終値では、これが最も低い水準である。
2026年2月末に216円まで切り上がったあとは、3月末から6月末まで190円台での横ばい圏が続いた。7月末は203円で、起点とほとんど変わらない。
変化が出たのは直近だ。2026年8月時点の終値は240円台まで切り上がっている。8月に2026年9月期3Q累計の決算が開示されており、営業利益予想の引き上げが意識された可能性はある。
もっとも、株価が動いた理由を単一の材料へ帰すことはできない。需給の偏りも、市場全体の地合いも無視できないからだ。
見るべきは、11か月にわたってほぼ横ばいだったこの株価が何を織り込んでいなかったのか、である。営業利益率が5%台から13%台へ上がった事実は、決算のたびに開示されていた。
筆者コメント
売上を落として利益を増やす経営は、どこまで続けられるのか。この問いが、いまのこの会社にいちばん噛み合うと考えている。
費用の柱が人件費と広告宣伝費であるかぎり、利益率の改善は「やめたこと」の積み上げでも作れてしまう。実際に人員は大きく減り、費用の総額も縮んだ。ここまでは経営の腕の見せどころだ。
ただ、情報サイトというモデルは、掲載を集める営業力と利用者を連れてくる集客の両方に金を使い続けなければ薄くなる。絞りはよく効くが、効きすぎると翌期以降の売上まで削る。足元の四半期で費用が先行しはじめたのは、その分岐に差しかかった兆しと読むこともできる。
もう一つ気になるのが、資産の置き方が変わりつつある点だ。情報サイトの会社が不動産を持つのは筋の通らない話ではない。ただ、稼ぐ場所と資産を置く場所がずれ始めると、投資家が見るべき指標も変わってくる。
利益率の改善が「絞った結果」なのか「稼ぎ方が変わった結果」なのか。次の決算では、その切り分けを意識して読んでみてほしい。
免責事項
- 本記事は一般的な情報提供のみを目的としており、特定の株式の購入や売却について助言や推奨するものではありません。
- 本記事上の情報に起因、また関連して生じた損害や損失に関しては一切の責任を負いません。
- 投資判断は最新の決算資料や市場動向などをご自身でご確認の上、自己責任で行ってください。
- 株主優待の内容や条件などは変更される可能性があるため、必ず公式サイトでご確認ください。
オリックスなどの国内金融機関出身。日本株アナリストおよび財務アドバイザーとして決算分析や資金調達を主導。「日経CNBC」出演などメディアを通じた相場解説の実績も豊富。企業財務に精通し、現在はモニクルリサーチで金融ニュースの深掘り記事を発信。
