この記事はここがポイント
- TOPIXの大改革では「流動性(市場での売買のしやすさ)」が重視され、浮動株が少ない企業は除外される可能性がある
- 継続基準は「売買代金回転率0.14以上」かつ「浮動株時価総額 上位97%以内」の両方を満たす必要がある
- ブックオフやWOWOWなど、創業家や親会社、持ち合いによる「固定株」が多い有名企業が脱落候補に挙がっている
- インデックスから外れて株価が下落する局面は、優良企業を安く買う「バリュー投資」の機会になり得る
「エステー」や「大幸薬品」、「ブックオフ」など、私たちが日常的に利用する製品やサービスを提供する有名企業たち。株式市場でもよく知られるこれらの企業が、日本の代表的な株価指数である「TOPIX」から外れてしまう可能性があることをご存知でしょうか。
業績が悪いわけでも、不祥事を起こしたわけでもない優良企業が、一体なぜ指数の構成銘柄から除外されるリスクを抱えているのでしょうか。この意外な理由について、元機関投資家の泉田良輔氏が東京証券取引所が進めるTOPIXの大改革を読み解き、プロの投資家ならではの視点で迫ります。
※本記事の脱落候補リストや数値は「イズミダイズム調べ」の試算であり、日本取引所グループ(JPX)の確定リストではありません
TOPIX大改革の要点と「浮動株」の考え方
TOPIX(東証株価指数)は、日本の株式市場全体の値動きを示す代表的な指数です。現在、このTOPIXの算出ルールの見直し(第2段階)が進められており、プライム、スタンダード、グロースの全市場を対象に、構成銘柄の入れ替えが予定されています。
この大改革の最大のテーマが「流動性を重視した銘柄選定」です。泉田氏はまず、「上場している株式なら、いつでも自由に売買できる」という私たちの常識に疑問を投げかけます。上場していても、特定の株主が長期に保有し続けているために、市場ではほとんど取引されない株式が存在するというのです。
「特定の株主がずっと持ちっぱなししてると、それはもう流動性のない株っていう風に見なされてしまって、そこを排除した『浮動株』で今回評価していきますよっていうのが1つ大きなポイントなんですよね」
企業が発行している株式には、大きく分けて「固定株」と「浮動株」があります。創業家や親会社、あるいは取引先との持ち合いなどによって長期的に保有され、市場に出回らない株式が固定株です。一方、市場で一般の投資家が自由に売買できる株式を浮動株と呼びます。
泉田氏は、この浮動株の重要性について次のように語ります。
「誰もが売りたい買いたいって思った時にできるもの、それを流動性と言ってるんだけども、そこを重視した銘柄選定になっていくという話です」
なぜここまで流動性が重視されるのでしょうか。その背景には、日本株の主要な買い手である海外の機関投資家の存在があります。
「結局日本株誰が買ってくれるのかっていうと外国人投資家なんですよね。外国人投資家ってほぼほぼ機関投資家なので、機関投資家が買えないものをたくさん上場させててもあんま意味がない」
機関投資家は一度に数十億円といった巨額の資金を動かします。浮動株が少ない企業に投資しようとすると、自分たちの買い注文だけで株価が急騰してしまい、逆に売る時には株価を暴落させてしまうため、そもそも投資対象から外さざるを得ないのです。
継続を分ける基準は「浮動株時価総額」――落ちるのは浮動株が小さい銘柄
残留を分ける「2つの基準」とスケジュール
今回の見直しでは、現在TOPIXに採用されている企業がそのまま残れるか(継続基準)、あるいは新たに採用されるか(新規追加基準)を判断するために、2つの厳しい基準が設けられました。この2つの基準は「AND条件」であり、両方を満たさなければなりません。
「これ両方満たさないといけないんで、どっちかだけクリアしててもダメなんですよ」と泉田氏は強調します。
1つ目の基準が「年間売買代金回転率」です。これは、1年間に市場で取引された金額の合計が、その企業の浮動株時価総額に対してどの程度の割合に達しているかを示す指標です。継続してTOPIXに残るためには、この回転率が「0.14以上(14%以上)」であることが求められます。
2つ目の基準が「浮動株時価総額の累積比率」です。これは、基準をクリアした企業の浮動株時価総額を大きい順に並べ、上から積み上げていった時の割合です。継続基準では「上位97%以内」に入らなければなりません。泉田氏の試算による非公式な目安としては、この上位97%の境界線は、浮動株時価総額で「約400億〜500億円」程度になると見られています。
実は、1つ目の「回転率0.14以上」という基準で脱落する企業はほとんどないと試算されています。つまり、TOPIXに残れるかどうかは、実質的に2つ目の「浮動株時価総額が十分にあるか」で決まる構造になっています。
TOPIX第2段階見直しのスケジュール(8月末基準→10月末初回入替→2028年7月まで四半期8段階)
ここで重要なのがスケジュールです。実際に銘柄の入れ替えが始まるのは2026年10月末ですが、その判断の「基準日」となるのは2026年8月末です。そして、一度にすべてが入れ替わるわけではなく、2026年10月以降、2028年7月までの間に四半期ごとに全8段階で、徐々に構成比率(ウエイト)が調整されていく仕組みになっています。
なお、本記事で紹介する脱落候補や数値は、すべて公開データに基づく「イズミダイズム調べ」の試算です。日本取引所グループ(JPX)が公表する公式の確定リストは2026年9月頃に発表される見込みであり、現時点で確定しているものではない点にご留意ください。
なぜ有名企業が? 脱落候補に共通する「3つの構造」
では、具体的にどのような企業がTOPIXから外れてしまう可能性があるのでしょうか。泉田氏が試算した脱落候補リストを見ると、誰もが知る有名企業が数多く含まれています。
これらの企業に共通しているのは、業績の良し悪しではなく、「固定株が多く、浮動株が少ない」という株式の保有構造です。大きく分けて3つのパターンが存在します。
1つ目は「創業家による保有」です。
小売業のブックオフグループHD(浮動株時価総額 約205億円)やハードオフコーポレーション(同 約216億円)、美容系のI-ne(同 約86億円)やヤーマン(同 約201億円)、日用品のエステー(同 約187億円)や大幸薬品(同 約83億円)などがこれに該当します。創業者が強いリーダーシップを発揮して成長してきた企業ほど、創業家が多くの株式を保有し続ける傾向があり、結果として市場に出回る浮動株が少なくなってしまいます。
2つ目は「親会社による保有」です。
外食チェーンのミニストップ(浮動株時価総額 約241億円)はイオンが親会社です。また、ネット・通信業のGMOインターネット(同 約139億円)は、親会社であるGMOインターネットグループが株式の約9割を保有しており、市場に出回る浮動株はわずか1割(浮動株比率0.10)しかありません。旅行業のKNT-CTホールディングス(近畿日本ツーリスト、同 約173億円)も近鉄グループが約54%を保有しています。
ネット・通信・サービスの脱落候補(GMOインターネットは親会社が約9割を保有し浮動株はわずか・試算)
3つ目は「企業間の持ち合い」です。
メディア・エンタメ業のWOWOW(浮動株時価総額 約113億円)は、フジテレビやTBS、日本テレビなどの放送局が株式を持ち合っており、約45%が固定株となっています。朝日放送グループHD(同 約182億円)も、朝日新聞やテレビ朝日との固定株が多くを占めています。
小売業の脱落候補と浮動株時価総額(創業家保有で浮動株が少ない・試算)
これらの企業がTOPIXに残るためには、浮動株時価総額を引き上げるしかありません。泉田氏はその対策について次のように語ります。
「持ち合ってるものとかオーナーが持ってるものをやっぱり放出して、浮動株の時価総額を上げるっていうのがまず1個ありますよね」
さらに、日々の取引を活発にするための努力も欠かせません。
「投資家の注目を浴びるように企業もIRで、投資家が興味あるであろう要素っていうのはちっちゃな事業でもちゃんとアピールしていくとか、説明会で丁寧に説明するとか、そういったことが必要になってくる」
泉田氏の視点:インデックス除外は「バリュー投資」の機会か
ここまで見てきたように、TOPIXの脱落候補に挙がっているのは、決して「悪い会社」ではありません。むしろ、私たちの生活に密着した優良企業が多く含まれています。
例えば、メーカーの島精機製作所(浮動株時価総額 約209億円)について、泉田氏は「いい会社ですよ、編み物の機械作ってる」と高く評価しています。また、オーナー企業についても「強いリーダーシップを発揮できるんで、オーナーがしっかり抑えてる時の方がパフォーマンス良かったりする」と、その経営上の強みを認めています。
しかし、ルールである以上、基準を満たせなければTOPIXからは除外されてしまいます。インデックス(指数)から外れるということは、TOPIXに連動する運用を行っている巨大なインデックスファンドが、機械的にその企業の株式を売却することを意味します。これにより、一時的に株価が下落するリスクがあります。
ただ、泉田氏はこの状況をネガティブに捉えるだけでなく、投資家にとっての「チャンス」になり得ると指摘します。
「いい会社も結構いっぱい含まれてて、個人的に思うのは、これで外れると株価下がる、ここから売ってくる人がいる。外れちゃうんだけど会社としてはいいので、バリューしっかり見極めて投資するってことも可能なのかなと思いました」
つまり、業績や財務体質に問題がない優良企業が、単に「TOPIXから外れる」という需給の要因だけで売られて株価が下がった場合、それは企業本来の価値(バリュー)に対して株価が割安になる瞬間だと言えます。そこを狙って投資する「バリュー投資」の戦略が有効になるかもしれないのです。
まとめ
今回のTOPIX大改革は、海外機関投資家を呼び込むために「流動性」を強く意識した内容となっています。その結果、創業家や親会社がしっかりと株式を保有している日本の伝統的な優良企業が、指数から外れてしまう可能性が浮上しています。
投資家としては、自分が保有している銘柄や興味のある企業が、この「浮動株時価総額」の基準を満たしているかを確認しておくことが重要です。また、脱落候補となっている企業が、今後どのような資本政策(株式の放出やIRの強化など)を打ち出してくるのかにも注目が集まります。
最後にもう一度お伝えしますが、本記事で紹介した脱落候補リストや試算の目安は「イズミダイズム調べ」であり、JPXが公表する確定リストではありません。基準日である2026年8月末に向けて、各企業がどのような対策を講じるのか、市場の動向を冷静に見守る必要があります。
参考資料
- JPX総研「TOPIX等の見直しの概要」(2026年5月)
- JPX総研「東証指数算出要領(TOPIX編)」(2025年12月10日版)
- 各社 有価証券報告書(浮動株比率・大株主の確認に使用)
- YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
※リンクは記事作成時点のものです。
免責事項
- 本記事は一般的な情報提供のみを目的としており、特定の株式の購入や売却について助言や推奨するものではありません。
- 本記事上の情報に起因、また関連して生じた損害や損失に関しては一切の責任を負いません。
- 投資判断は最新の決算資料や市場動向などをご自身でご確認の上、自己責任で行ってください。
- 株主優待の内容や条件などは変更される可能性があるため、必ず公式サイトでご確認ください。
「イズミダイズム」はモニクルグループが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命出身の元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点から経済ニュースの裏側や資産形成のトピックを論理的に解説します。
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。元機関投資家。フィデリティ投信や日本生命で日本株式や米国株式の証券アナリストやファンドマネージャーとして勤務。東京科学大学大学院非常勤講師。
