なぜ海運3社の株価は連動するのか?元機関投資家が読み解く決算の裏側
出所:イズミダイズム
監修者泉田良輔LIMO&ファイナンス編集部 編集長
06:22
 なぜ海運3社の株価は連動するのか?元機関投資家が読み解く決算の裏側
出所:イズミダイズム

この記事はここがポイント

  • 海運3社の株価は同じトレンドで動くが、決算の中身は各社で大きく異なる
  • 景気に敏感なコンテナ船事業は「ONE」として別会社に切り出されている
  • 営業利益ではなく「経常利益」と「持分法投資利益」に注目する
  • ONEの業績が自社に与える影響度は、川崎汽船と日本郵船で全く違う

日本の輸出入の99.5%(トンベース・2024年)を支える海運業界。日本郵船、商船三井、川崎汽船の大手3社は、コロナ禍以降、TOPIX(東証株価指数)を大きく上回る株価上昇を見せ、足元でもほぼ同じトレンドで動いています。しかし、同じ「海運株」として一括りに買われているにもかかわらず、実は決算の中身や利益の構造は3社で全くの別物です。一体なぜ、中身が違うのに株価は連動して力強く上昇しているのでしょうか。この理由について、元機関投資家の泉田良輔氏が海運3社の株価の動きと会社からのメッセージを読み解きます。

海運3社の株価はなぜ同じように動くのか

3社とも同じような海運会社だから、株価も同じように連動して動く。そう思っていませんか。

実は、決算の中身を見ると3社はそれぞれ別物です。まずは、読者の皆さんが実際に見ている株価の動きから確認してみましょう。日本郵船、商船三井、川崎汽船の3社は、2020年から2021年にかけてのコロナ禍を契機にTOPIXを大きくアウトパフォーム(基準となる指数を上回る成績を出すこと)し、現在に至るまで右肩上がりのトレンドを描いています。

特に目を引くのが、3社の中で最も規模が小さい川崎汽船の株価です。2019年からの変化を見ると、いわゆる「テンバガー(株価が10倍になる銘柄)」に迫る勢いを見せました。なぜ、規模の小さい企業のほうが株価の変化が大きくなったのでしょうか。泉田氏はこの背景について、次のように指摘します。

「株価を見る上で大事なのは変化率なんですよ。変化率が大きくなる銘柄は株価が上がりやすいんで、今回の川崎汽船なんかはそうかもしれません」

株式市場では、企業の規模が小さいほど、何か1つのイベントや好材料が出たときの業績へのインパクトが大きくなり、市場のコンセンサス(投資家たちの事前の予想)に対するサプライズが起きやすくなると考えられます。

そして、この3社の株価を押し上げた最大の要因は、マクロ環境(世界的な経済の大きな流れ)の変化です。コロナ禍からの経済再開によって世界中でモノが動き出し、需給が引き締まったことで、海運各社はしっかりと利益が出る構造になりました。

「企業ってやっぱり大きな経済環境、経済活動の中で動いている1個の主体なので、やっぱりそのマクロ環境の分析も欠かせないっていう典型例が海運です」

泉田氏が語るように、海運株を分析する上では、個別の企業努力だけでなく、世界の景気や地政学リスクといったマクロ環境が「追い風」になるか「逆風」になるかを見極めることが不可欠です。

暴れ馬「コンテナ船」の切り出しとONEの誕生

海運と一口に言っても、運ぶモノによって船の種類は全く異なります。鉄鉱石や石炭をそのまま積み込む「ドライバルク船」、原油や化学品を運ぶ「タンカー」、マイナス162度で液化天然ガスを運ぶ「LNG船」、そして完成車を運ぶ「自動車船」など、それぞれに別の市場が存在します。

中でも、海運各社の業績を大きく揺さぶってきたのが「コンテナ船」です。コンテナ船(いわば「規格化された箱に様々な荷物を詰めて運ぶ定期船」)は、工業製品や消費財を運ぶため、世界の景気動向に最も敏感に反応します。好景気でモノが売れれば運賃は急騰し、不景気になれば荷動きがピタリと止まる性質を持っています。

実際の数字を見ると、そのボラティリティ(価格変動の激しさ)に驚かされます。日本郵船の定期船事業の経常利益(本業の儲けである営業利益に、受取利息や持分法による投資利益などの本業以外の損益を加減した利益)は、2019年3月期には264億円の赤字でしたが、コロナ後の2022年3月期には一転して7,342億円という爆発的な黒字を計上しました。

 

日本郵船 定期船事業の経常利益推移

日本郵船 定期船事業の経常利益推移
出所:日本郵船「IRデータブック」(2026年8月5日)を基にイズミダイズム作成
日本郵船 定期船事業の経常利益推移

 

泉田氏はこのコンテナ船事業の収益構造について、次のように表現します。

「赤字の時もあるし、めっちゃ儲かる時もあると。(中略)コロナ終わって経済が動き出した後の利益はすごい爆発的なものがあるんですけど、その前って振り返ってみると、結構どの会社も採算を取るのに苦労していたっていうのがあります」

実際に、事業統合前の9年間で定期コンテナ船事業が黒字だったのは、3社合わせて27期中わずか6回にとどまったとされています。グローバルでの競争が激しく、自社だけで運賃のコントロールができないため、まさに「暴れ馬」のような事業でした。

この暴れ馬をコントロールするため、日本の海運3社は大きな決断を下します。2017年7月に、3社の定期コンテナ船事業を統合し、「オーシャンネットワークエクスプレスホールディングス(ONE)」を設立したのです。

「連結子会社ではなくて持分法事業にすることによって、営業利益の外にこのコンテナ船事業を持っていくということにしたんですよ」

泉田氏が解説するように、3社はONEを持分法適用関連会社(いわば「経営の中心から少し距離を置いた投資先の会社」)としました。議決権の所有割合は日本郵船が38.00%、商船三井が31.00%、川崎汽船が31.0%です。これにより、変動の激しいONEの損益は各社の「営業利益」には含まれず、その下の「営業外収益(持分法による投資利益)」として計上される体制へと移行しました。ただし、完全な分離ではなく、各社のセグメント(決算で事業ごとに区分して開示される単位)には、自社のコンテナ船・定期船事業が一部残っている点には注意が必要です。

 

海運3社とONEの出資構造

海運3社とONEの出資構造
出所:各社有価証券報告書「関係会社の状況」を基にイズミダイズム作成
海運3社とONEの出資構造

 

ONEの業績見通しと海運株への影響

では、切り出されたONEの足元の業績はどうなっているのでしょうか。

ONEが発表した2026年度の通期見通しによれば、税引後利益を前回の300百万USDから900百万USDへと、実に3倍に上方修正しています。この強気な見通しの背景には、短期運賃の上昇傾向が続き、堅調な荷動きによって高い運賃水準が維持されるという見立てがあります。

ただし、この見通しには重要な前提条件が置かれています。それは「10月に紛争前の水準まで運航条件が安定化し、また喜望峰ルートの利用が年度内は継続すること」です。中東の地政学リスクが運賃を押し上げている側面があり、この前提が崩れれば業績は下振れするリスクを孕んでいます。

泉田氏は、海運3社に投資する上でONEの動向は避けて通れないと強調します。

「ONE見逃せません。ここの収益が持分法の投資利益として経常利益には反映されちゃうんで、ここはしっかり見とく必要があります」

別会社になったとはいえ、ONEが稼ぎ出す利益は、出資比率に応じて3社の経常利益にダイレクトに跳ね返ってきます。海運株の決算を読む際は、自社の業績だけでなく、ONEの決算資料も併せて確認することが求められます。

 

ONE社の2026年度通期見通し

ONE社の2026年度通期見通し
出所:Ocean Network Express「2026年度第1四半期 決算説明資料」(2026年8月4日)p.8
ONE社の2026年度通期見通し

 

【重要】「海運3社」と一括りにしてはいけない理由

3社は同じONEに出資しているのだから、どこに投資しても同じ結果になる。そう考えてしまうのは早計です。

実は、ONEの業績が自社の決算に効く度合いは、3社でまるで違います。ここが、本記事で最もお伝えしたいポイントです。「海運3社」と一括りにして営業利益だけを見ていると、どの会社を見ているかで結論が大きく変わってしまいます。

2026年3月期通期の実績を見てみましょう。

川崎汽船は、持分法による投資利益227億円のうち、実に150億円(66.1%)がONEからの計上額でした。総資産に対するONEへの投資簿価(帳簿上の投資額)の割合も44.0%と高く、川崎汽船にとってONEの業績は自社の利益を左右する巨大な「エンジン」として働いています。

一方、日本郵船はどうでしょうか。同期間の持分法による投資利益850億円のうち、ONEからの計上額は190億円(22.4%)にとどまります。日本郵船の場合、ONEよりもLNG船などのエネルギー系合弁事業がもたらす利益のほうが大きく効いているのです。

商船三井に至っては、ONEからの計上額を非開示としています。同社は「ウェルビーイングライフ事業」としてダイビルなどの不動産事業を抱えており、エネルギー輸送にも強みを持つなど、他2社とは異なる事業ポートフォリオを構築しています。

泉田氏はこの違いについて、次のように総括します。

「今回一番暴れ馬のコンテナ船のところをONEに統合して、営業利益段階では各個社の特徴が出る体制にはなったというのは理解いただけたかなと思います」

つまり、コンテナ船という共通の変動要因を「営業外」に追い出したことで、かえって各社が本来持っている「陸上の物流に強い日本郵船」「不動産やエネルギー輸送に強みを持つ商船三井」といった個性が、セグメントの構成に鮮明に表れるようになったと考えられます。

 

持分法投資利益に占めるONE社分(2026年3月期)

持分法投資利益に占めるONE社分(2026年3月期)
出所:各社有価証券報告書「経営成績の概況」を基にイズミダイズム作成
持分法投資利益に占めるONE社分(2026年3月期)

 

投資家が注目すべき決算のポイント

ここまで見てきたように、海運3社の決算を読み解く上で、本業の儲けを示す「営業利益」だけを見ていては判断を誤る可能性があります。

投資判断に直結する観測点として、海運株の決算では必ず「経常利益」と、その内訳である「持分法による投資利益」を確認してください。ただし、どの会社を保有するかで、見るべき比重は変わります。

川崎汽船に投資するのであれば、ONEの業績が自社に与える影響が極めて大きいため、ONEが四半期ごとに発表する決算資料が実質的な先行指標として働くと考えられます。一方、日本郵船に投資するのであれば、ONEだけでなくエネルギー関連の合弁事業の動向にも目を配る必要があります。

泉田氏は、海運株投資の極意を次のように締めくくります。

「単純に個社の影響だけじゃなくて、マクロ環境も確認しながら個社の戦略に落としていく理解も進めていくっていうのがすごい大事だなと」

注意点として、現在のONEの強気な業績見通しは、ホルムズ海峡の情勢や喜望峰ルートの迂回継続といった特定の地政学リスクを前提としています。この前提が外れ、スエズ運河の通峡が再開されれば、船腹(船の輸送能力)の供給過剰が意識され、運賃の下落圧力が強まる余地があります。また、商船三井はONEの業績影響を個別に開示していないため、他2社と全く同じ物差しで比較することはできません。

マクロ環境という大きな「波」に乗りつつ、各社がどのような「船」で舵を取っているのか。決算書という羅針盤を手に、その違いを見極めることが、海運株投資の第一歩と言えるでしょう。

参考資料

  • 日本郵船株式会社「2027年3月期 第1四半期 決算短信」(2026年8月5日)
  • 日本郵船株式会社「2027年3月期 第1四半期 決算説明会資料」(2026年8月5日)
  • 日本郵船株式会社「IRデータブック」(2026年8月5日)
  • 商船三井株式会社「2027年3月期 第1四半期 決算短信」(2026年8月7日)
  • 商船三井株式会社「2027年3月期 第1四半期 決算説明資料」(2026年8月7日)
  • 川崎汽船株式会社「2027年3月期 第1四半期 決算短信」(2026年8月4日)
  • 川崎汽船株式会社「2027年3月期 第1四半期 決算説明会資料」(2026年8月4日)
  • Ocean Network Express「2026年度第1四半期 決算説明資料」(2026年8月4日)
  • 各社「有価証券報告書」
  • 日本船主協会「SHIPPING NOW 2025-2026/日本の海運」
  • 笹川平和財団 Ocean Newsletter 第393号(森隆行、2016年12月)
  • YouTubeチャンネル「イズミダイズム」

各資料の入手先: 日本郵船 IRライブラリ / 商船三井 IRライブラリ / 川崎汽船 IRライブラ

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