この記事はここがポイント
- クラボウの主要な稼ぎ頭は繊維から化成品、不動産へ転換し、2026年3月期は繊維事業が赤字となった点。
- 2026年3月期は政策保有株式売却益74億円で純利益42.8%増だが、営業利益は11.0%減と本業と最終利益の質に乖離がある点。
- 自己資本比率65.5%と高く、総資産の約3分の1を政策保有株式が占め、資本効率改善が中期経営計画の重要課題である点。
社名に「紡績」を掲げる会社の決算を見て、繊維の調子で業績が決まると考えるのは自然だ。だが倉敷紡績、いまはクラボウ<3106>と名乗るこの会社の中身は、その名前から受ける印象とかなり違う。昨秋からの株価上昇とあわせて、稼ぎ方と資本の使い方を整理してみたい。 ※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。
7,000円台から1万円台へ、切り上がった株価
クラボウの株価は、2025年9月末に7,000円台にあった。
昨秋以降、株価は大きく水準を切り上げた。2025年10月末には7,000円台の安値をつけたが、その後は上昇基調に転じ、2026年2月末には1万円台に乗せている。
3月末にいったん8,000円台まで押し戻される場面もあったが、春以降は再び1万円台を回復し、2026年8月時点では10,500円前後で推移している。この間、株価は7,000円台から1万円台へと、5割ほど水準を切り上げた。
株価がここまで戻った背景を一つに絞ることはできない。ただ、この間に進んだ稼ぐ力と資本政策の変化は、押さえておく価値がある。
「紡績会社」の稼ぎ頭は、もう繊維ではない
紡績会社という響きから、繊維が事業の中心だと考えたくなる。だが2026年3月期のセグメントを見ると、その印象は実態と食い違う。
売上構成の柱は、全体の4割強を占める化成品事業だ。半導体製造装置向けの高機能樹脂や機能フィルム、自動車向けの不織布などを手がけ、2026年3月期は売上高626億円、営業利益41億円を稼いだ。
一方、社名の由来である繊維事業は、売上こそ3割を占めるものの、8億円の営業損失と赤字だった。
利益率でむしろ光るのは、規模の小さい事業だ。環境メカトロニクス事業は営業利益率が17%、不動産事業に至っては売上39億円で営業利益22億円、営業利益率58%に達する。資産を活かした賃貸収入が、細い売上から厚い利益を生んでいる。
繊維の名を掲げながら、利益は化成品と、環境・不動産という別の柱から生まれている。看板と中身のこのずれは、同社を見るうえで最初に押さえておきたい点だ。
純利益+42.8%の正体。営業減益との落差
見出しの数字だけを追うと、この会社の2026年3月期は好調に映る。親会社株主に帰属する当期純利益は128億円で、前期比42.8%増と大きく伸びたからだ。
だが同じ期の営業利益は91億円(前期比11.0%減)、経常利益は110億円(同6.1%減)といずれも減益だ。本業は縮んでいるのに、最終利益だけが大きく伸びている。この落差はどこから来るのか。
答えは特別利益にある。会社の説明によると、政策保有株式の売却益を特別利益に計上したことが、当期純利益を押し上げた。売却益を中心とする特別利益は74億円にのぼる。つまり最終利益の伸びは、本業の稼ぐ力ではなく、保有資産の入れ替えによるところが大きい。
この構図は直近の1Qにも尾を引いている。2027年3月期1Qは売上高376億円(前年同期比5.2%増)、営業利益28億円(同32.1%増)と本業は明確に上向いた。化成品事業の営業利益は前年同期の2.3倍に伸びており、半導体関連の高機能樹脂の受注が好調に推移したためだ。会社は通期見通しも引き上げ、2027年3月期は営業利益120億円(前期比30.7%増)を見込む。
それでも当期純利益は37億円(前年同期比26.7%減)と減っている。前年同期に大きかった政策保有株式の売却益が、今回は小さかったためだ。営業は増益、最終益は減益という一見ちぐはぐな並びは、利益の質を分けて見る必要を示している。
厚い自己資本と、眠る政策保有株式
利益の質と並んで見ておきたいのが、資本の使い方だ。
2026年3月期末の自己資本比率は65.5%と高い。繊維製品業種の中央値である58%前後と比べても厚めで、財務は資本過多気味に映る。
その一方で、総資産2,018億円のうち投資有価証券が695億円を占める。政策保有株式を中心とするこの資産は、総資産のおよそ3分の1にあたる規模だ。
自己資本利益率(ROE)は10.2%と、繊維製品の中央値である5%前後を上回る。ただし前述のとおり、直近のROEは政策保有株式の売却益に支えられた面がある。売却益を除いた本業ベースの資本効率は、数字ほど高くない可能性がある。
低い負債と厚い自己資本は、一般には財務の安定として好感されやすい。もっとも、資本をほとんど負債で補わない財務が資本効率の面で最適かどうかは、また別の論点だ。稼ぐ力に対して資本が厚すぎれば、ROEは伸びにくくなる。
同社もこの点を意識しているように見える。中期経営計画「Accelerate'27」では、経営資源の効率的な活用による企業価値の向上を掲げる。実際に自己株式の取得を進め、配当も3期連続で増やしてきた。2026年10月には1株を5株に分割する予定で、投資単位の引き下げにも動く。
眠っていた資産を動かし、資本の効率を上げていけるか。株価の上昇が続くかどうかも、この一点にかかっているように思える。
筆者コメント
数字をいくつか並べると、この会社のいまの姿がはっきりしてくる。本業の利益、最終利益、そして資産の中身。この三つは、必ずしも同じ方向を向いていない。
本業では化成品が半導体関連の追い風で伸び始めた。一方で最終利益は政策保有株式の売却益に左右され、期ごとの振れが大きい。そして貸借対照表には、稼ぐ力の割に厚い自己資本と、多額の政策保有株式が積み上がっている。
株価が昨秋から水準を切り上げたのは、こうした資産をどう動かすかへの期待も一因ではないだろうか。自己株式の取得、連続増配、株式分割と、資本市場に向けた動きは確かに増えている。
見ておきたいのは、売却益という一過性の利益ではなく、本業が生む利益と、動き始めた資本政策が噛み合っていくかどうかだ。繊維という古い看板の内側で、資本の効率がどこまで上がるのか。その一点を軸に、この会社を追っていくのが有効だと考えている。
免責事項
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オリックスなどの国内金融機関出身。日本株アナリストおよび財務アドバイザーとして決算分析や資金調達を主導。「日経CNBC」出演などメディアを通じた相場解説の実績も豊富。企業財務に精通し、現在はモニクルリサーチで金融ニュースの深掘り記事を発信。
