この記事はここがポイント
- TDKの主軸は二次電池のエナジー応用製品で、スマホ部品中心というイメージと異なる事業構造。
- 2027年3月期1Qは売上38.3%、営業利益53.0%の大幅増収増益、円安とAIデータセンター向けが牽引。
- 株価は昨秋以降1,900円台から4,100円台へ急騰、事業の伸びと乖離する高いボラティリティ。
TDK<6762>と聞いて思い浮かべるのは、スマートフォンに載る小さな電子部品だろうか。たしかにコンデンサやセンサは同社の看板だ。ところが直近の売上を構成比で分けてみると、稼ぎの中心はもう別のところに移っている。株価も昨秋以降、大きく上下してきた。2027年3月期1Qの決算を手がかりに、収益の重心と株価の動きを重ねてみたい。 ※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。
2027年3月期1Qは大幅増益。円安と出荷増が押し上げた
直近の四半期決算から確認しよう。2027年3月期1Qの売上収益(IFRS)は前年同期比+38.3%の7,410億円、営業利益は同+53.0%の863億円だった。税引前利益は+64.0%の945億円、当期利益(親会社の所有者に帰属)は+94.4%の805億円と、利益の伸びが売上の伸びを上回っている。
なぜここまで伸びたのか。会社の説明によると、対米ドルで前年同期比10.3%の円安が進み、為替変動だけで約725億円の増収と約113億円の営業増益をもたらした。加えて、AIデータセンター向け製品の出荷増、そして合理化や前期に実施した構造改革の効果が利益を押し上げた。
もっとも、追い風ばかりではない。メモリの需給逼迫と価格高騰を背景に、スマートフォンなどICT関連製品の生産は前年同期を下回った。それでも全セグメントが増収となったのは、需要の柱が複数に分散しているためと読み取れる。
稼ぎ頭は二次電池。セグメントで見える収益の重心
セグメント別に分けると、収益の重心がはっきり見える。最大はエナジー応用製品で、売上収益4,057億円は連結の54.8%を占め、セグメント利益は693億円だった。二次電池と電源が主体で、売上の半分超をこの一群が生み出している。
続く受動部品は売上1,768億円(+28.0%)で、セグメント利益は前年同期比+172.2%の173億円と大きく伸びた。磁気応用製品は売上816億円(+49.6%)で、会社によればAIデータセンター向けのニアライン用HDDに使うヘッドやサスペンションが伸びを牽引した。センサ応用製品も売上618億円(+33.3%)と増えている。
ここに一つの見え方のズレがある。TDKにはスマホ部品メーカーというイメージが根強い。だが実際の売上構成では二次電池が過半を占め、スマホ関連のICT市場はむしろ生産減の局面にあった。HDD部品も、記録媒体は斜陽という一般的な印象とは裏腹に、AIデータセンター向けが需要を押し上げている。イメージと数字は、並べて見ると別の姿を見せる。
5期の伸びと、業種内での立ち位置
視野を広げて過去5期を眺めると、成長の傾きが見えてくる。売上収益は2022年3月期の1兆9,021億円から2026年3月期の2兆5,048億円へ、営業利益は同じ期間に1,667億円から2,724億円へ増えた。特に直近2期の伸びが際立つ。
収益性を業種と比べると、2026年3月期の営業利益率はおよそ10.9%で、電気機器の業種中央値6.7%を上回る。ROE9.8%も業種中央値7.4%を上回った。一方で自己資本比率は49.5%と、業種中央値の62.2%を下回っている。電気機器のなかでは、自己資本の厚みに頼るより負債も使って事業を回すタイプと言える。無借金経営が持てはやされがちだが、負債をどう活用するかという観点では、この構成が一概に見劣りするわけではない。
昨秋以降の株価。1,900円台から一時4,100円台への振れ
株価の動きは荒い。2026年3月末はおよそ1,900円台と、昨秋以降では低い水準にあった。そこから急速に水準を切り上げ、5月末には4,100円台まで駆け上がる場面があった。その後は反落し、7月末は3,000円前後、2026年8月時点でも3,000円台での推移となっている。
数か月で水準がほぼ倍まで動いたことになる。ボラティリティ(株価の値動きの激しさ)の大きさが目立つ。会社は2027年3月期通期に営業利益2,950億円(+8.3%)、当期利益2,250億円(+15.0%)を見込んでおり、1Q時点の進捗は順調に映る。ただし株価の急変動は業績だけで説明できるものではなく、AI関連への物色や需給、為替の思惑も重なったとみられる。実力と株価の温度差は意識しておきたい。
筆者コメント
エナジー応用製品の構成比と、直近の株価の荒い値動きを並べて見ると、この銘柄の性格が見えてくる。収益の柱は二次電池へと移り、そこにAIデータセンター向けのHDD部品や産業機器向けが加わる。スマホ需要が振るわない局面でも全体を押し上げられたのは、この分散が効いたためだろう。
気をつけたいのは、四半期の高い伸びをそのまま通期へ延長して考えないことだ。1Qは円安の追い風が大きく、前提が変われば景色も変わる。会社は通期見通しで今後の為替を1Qの実勢より円高側に想定しており、実勢との差が今後の修正余地になる。
株価が数か月で倍近く動く一方、事業の伸びはより緩やかだ。派手な値動きに気を取られず、どのセグメントが稼ぎ、その持続性はどうかというセグメントの分解に着眼して見ていくのが有効だ。イメージではなく構成比で会社を捉える。その姿勢を持ちたい局面だ。
参考資料
- TDK株式会社2027年3月期 第1四半期連結決算情報
免責事項
- 本記事は一般的な情報提供のみを目的としており、特定の株式の購入や売却について助言や推奨するものではありません。
- 本記事上の情報に起因、また関連して生じた損害や損失に関しては一切の責任を負いません。
- 投資判断は最新の決算資料や市場動向などをご自身でご確認の上、自己責任で行ってください。
- 株主優待の内容や条件などは変更される可能性があるため、必ず公式サイトでご確認ください。
オリックスなどの国内金融機関出身。日本株アナリストおよび財務アドバイザーとして決算分析や資金調達を主導。「日経CNBC」出演などメディアを通じた相場解説の実績も豊富。企業財務に精通し、現在はモニクルリサーチで金融ニュースの深掘り記事を発信。
