武田薬品工業<4502>、2027年3月期1Qは営業利益+9%。当期利益は▲9%、利益の質をどう読むか
Tada Images/Shutterstock.com
執筆者石津 大希アナリスト 株式会社モニクルリサーチ
16:30
武田薬品工業<4502>、2027年3月期1Qは営業利益+9%。当期利益は▲9%、利益の質をどう読むか
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この記事はここがポイント

  • 武田薬品工業の会計利益の振れは、巨額の無形資産償却など非現金費用が主因。
  • 会計上の最終赤字期でも、2026年3月期に1兆円超の営業キャッシュフローを創出。
  • この巨額キャッシュ創出力を背景に、最終赤字期を含め3期連続増配を維持する還元姿勢。

医薬品は不況に強く、業績が安定している。そんなイメージを持つ人は多いのではないだろうか。だが武田薬品工業<4502>の決算を並べると、その印象は少し揺らぐ。営業利益が1年で98%も縮む期があれば、最終赤字に沈む期もある。株価も昨秋から冬にかけて大きく切り上がった後、高値圏で足踏みが続く。ディフェンシブという言葉の内側で、何が起きているのかを見ていきたい。

※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。

昨秋の安値から大きく上昇、その後は高値圏で伸び悩む株価

出所:各種資料をもとに筆者作成

まず直近1年弱の株価を振り返る。2025年9月末は4,300円台、10月末には4,100円台まで下押しし、昨秋以降ではここが最も低い水準だった。そこから流れが変わる。冬にかけて切り上がり、2026年2月末には5,800円台と、昨秋以降で最も高い水準をつけた。

もっとも、勢いはそこまでだった。春以降は5,100〜5,200円台で伸び悩み、方向感を欠く。直近7月末は5,500円台まで持ち直したものの、2月の高値には届いていない。8月時点では5,200円台で推移している。

安値からは4割ほど水準を切り上げた場面もあった。ただ、その後の半年は上値が重い。決算の中身が読み取りにくいことが、株価の頭を押さえている可能性がある。

1Qは営業増益でも当期減益、分かれ目は税負担

2027年3月期1Qは、売上収益(IFRS)が1兆2,199億円で前年同期比+10.2%、営業利益は2,014億円で+9.1%となった。増収増益の見出しだけを見れば好調に映る。

もっとも、中身はそう単純ではない。会社の説明によると、この増収は主に円安による為替の押し上げで、恒常為替レートベースでは売上はほぼ横ばいだった。潰瘍性大腸炎・クローン病治療剤のエンタイビオや免疫グロブリン製剤、がん領域は伸びた。一方、注意欠陥/多動性障害治療剤のビバンセは、米国での後発品浸透で減収が続く。稼ぐ力の実勢は、為替を除くと足踏みに近い。

さらに当期利益は1,131億円で▲8.9%と、営業段階の増益と逆を向いた。会社は、法人所得税費用の増加が主因としている。繰延税金資産の見直しや米国の国際税制に基づく追加負担が重なった。営業利益と最終利益が逆方向に動く。この捻れが、1Qの分かりにくさの正体だ。

なお通期予想は、売上収益4兆6,400億円、営業利益4,200億円、当期利益1,660億円で据え置かれた。前期の最終赤字からの回復を見込む内容である。

巨額の無形資産と、揺れる会計利益・安定するキャッシュ

武田の利益がなぜこれほど振れるのか。手がかりは貸借対照表にある。のれんとは企業買収の際に生じる無形の資産だが、武田の場合その残高が5兆8,090億円に達する。無形資産も3兆4,193億円あり、過去の大型買収の規模の大きさを物語る。

この巨額の無形資産が、毎期の償却費や減損として利益を削る。過去5期を並べると振れの大きさがよくわかる。営業利益は2022年3月期の4,608億円から2023年3月期には4,905億円へ伸びた。しかし2024年3月期は2,140億円へ落ち込み、2026年3月期はわずか62億円まで縮んでいる。同じ期の当期利益は1,524億円の赤字だ。会社の説明では、2026年3月期には米国での反トラスト訴訟に関する引当金4,035億円などが計上された。一度に載る費用が、単年度の利益を大きく歪める。

ROE(自己資本利益率)も、2024年3月期以降は業種の中央値である3.0%を下回る年が続く。医薬品セクターの標準的な姿からは外れている。

ここで見方を変えたい。会計上の利益が乱高下する一方で、営業キャッシュフローは2026年3月期で1兆414億円と、1兆円規模を保っている。償却費や引当金の多くは、その期に現金が出ていく費用ではない。だから会計の利益は薄く見えても、現金を生む力はそれほど毀損していない。利益の額面とキャッシュ創出力を、分けて見る必要がある局面だ。

3期連続増配を続ける還元姿勢

最終赤字に沈んだ2026年3月期も、武田は配当を減らさなかった。1株配当は2024年3月期の188円から3期連続で増え、通期予想は204円となっている。純資産に対する配当の比率であるDOEは8.3%で、医薬品業種の中央値2.9%を大きく上回る。

赤字でも配当を積み増す判断の背景には、先に見たキャッシュ創出力への自信があると読み取れる。会計上の利益ではなく、手元に残る現金を還元の物差しにしている姿勢がうかがえる。もっとも、自己資本比率は48%台と業種の中央値である約70%を下回る。大型買収で厚く抱えた有利子負債とのバランスをどう取るかは、引き続き見ておきたい論点だ。

筆者コメント

印象的なのは、武田の「ディフェンシブ」という顔と、決算の振れ幅の大きさが同居している点だ。不況に強い医薬品というイメージが先に立つが、実際の営業利益は一つの訴訟や一度の減損で桁が変わる。安定を期待して眺めると、拍子抜けするかもしれない。

見るべきは、その振れがどこから来ているかだ。多くは過去の大型買収が積み上げた無形資産の償却であり、現金の流出を伴わない会計上の費用である。だからこそ、最終赤字の期でも巨額の営業キャッシュフローが残り、増配が続く。

株価が高値圏で足踏みしているのは、この会計利益とキャッシュのギャップを、市場がまだ測りかねているためかもしれない。損益計算書の一行だけで判断せず、キャッシュフローと資産の中身を重ねて読む。武田のような銘柄では、その姿勢がとりわけ効いてくると私は考えている。

参考資料

  • 武田薬品工業株式会社 2027年3月期第1四半期決算短信

免責事項

  • 本記事は一般的な情報提供のみを目的としており、特定の株式の購入や売却について助言や推奨するものではありません。
  • 本記事上の情報に起因、また関連して生じた損害や損失に関しては一切の責任を負いません。
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石津 大希アナリスト 株式会社モニクルリサーチ

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