機関投資家は「個別株」を最後に選ぶ?プロが実践する資産配分の思考法
出所:イズミダイズム
監修者泉田良輔LIMO&ファイナンス編集部 編集長
14:22
機関投資家は「個別株」を最後に選ぶ?プロが実践する資産配分の思考法
出所:イズミダイズム

この記事はここがポイント

  • 機関投資家は「アセットアロケーション」「セクターアロケーション」「銘柄選択」の3階層で投資を考える
  • 個別銘柄の選択は一番最後であり、マクロ環境に応じたセクター(業種)への資金配分が重要
  • 景気や金利の動向によって、資金が有利なセクターへ移動する「セクターローテーション」が起きる
  • 年金運用を行うGPIFの基本ポートフォリオは、個人の資産配分を考える上でも参考になる
  • 投資には、個別企業を深く見る「ズームイン」と、市場全体を俯瞰する「ズームアウト」の両方の視点が必要

株式投資を始める際、多くの個人投資家は「この会社は将来性があるか」「どの銘柄を買えば儲かるか」と、個別銘柄の分析から入りがちです。しかし、何千億円、何兆円という資金を動かすプロの機関投資家たちの発想は、実は全くの逆です。

彼らは個別銘柄を選ぶ前に、まず「どこに、どれだけのお金を配分するか」という大きな枠組みから決定していきます。

一体なぜ、プロは個別株選びを「一番最後」にするのでしょうか。この点について、元機関投資家の泉田良輔氏が、リスクを管理しながらリターンを狙うための「資産配分の思考法」を解説します。

投資のプロが実践する「資産運用の3階層」

個人投資家から「AIや半導体が熱いと思い、特定の個別株を少しずつ買っているが、思ったより伸びない」という疑問が投げかけられると、泉田氏は機関投資家が実践している投資の考え方を提示します。

機関投資家は、投資先を決定する際に大きく3つの階層を踏んでいきます。それが「アセットアロケーション」「セクターアロケーション」、そして「銘柄選択」です。

機関投資家が投資を決める3つの階層

機関投資家が投資を決める3つの階層
機関投資家が投資を決める3つの階層

最も効果が大きい「アセットアロケーション」

資産運用において最もリターンに大きな影響を与えると言われているのが、一番上の階層である「アセットアロケーション」です。

泉田氏は次のように語ります。

「どの資産に投資をするか(中略)その時々によって一番上がる資産って違うんでどの資産を買うかっていうのを決めるのをアセットアロケーションと言います」

アセット(資産)には、株式、債券、金、リート(不動産投資信託)、コモディティ(商品)など様々な種類があります。現在の経済状況において、どの資産クラスに資金を振り分けるのが最適かを決定するのがアセットアロケーションです。

しかし、これは非常に難易度が高く、泉田氏いわく「答えがなくて神の仕業」というほどの領域です。実際の運用会社でも、このアセットアロケーションを専門に行う担当者(アセットアロケーター)は、社内に1〜2人程度しかいないほど高度な専門職とされています。

2番目に重要な「セクターアロケーション」

株式に投資することが決まった後、次に行うのが「セクターアロケーション」です。セクターとは、テクノロジー、ヘルスケア、金融、食品といった「業種」のことを指します。

「個別銘柄行くまでにセクターに対してどういう重み付けをするかっていうのをセクターアロケーションって言ってこれが2番目に大事な仕事」

機関投資家の運用では、多くの場合「ベンチマーク」と呼ばれる基準が存在します。例えば、米国の代表的な株価指数であるS&P500をベンチマークとする場合、その指数に含まれる各セクターの比率が基準となります。

ファンドマネージャーは、マクロ経済の環境を分析し、この基準に対して強弱をつけます。あるセクターの成長に自信があれば基準よりも多く保有する「オーバーウェイト」とし、逆に過熱感があったり環境が悪化しそうだと判断すれば基準よりも少なくする「アンダーウェイト」とします。

例えば、これから金利が上がっていく局面が予想される場合、テクノロジーなどの成長株(グロース株)は株価が下がりやすくなります。そのため、テクノロジーセクターを超オーバーウェイトにすることは危険だと判断し、ベンチマークと同等、あるいはアンダーウェイトに落とすといったマクロ判断が必要になります。

個別株選びは「一番最後」の調整

そして、セクターごとの配分枠(バジェット)が決まった後、その枠の中でどの企業の株を何パーセント持つかを決めるのが「銘柄選択(銘柄ピック)」です。

「多くの人って個別銘柄に行きがちなんだけどリスクを管理するっていう観点からすると一番最後」

例えば、テクノロジーセクター全体としては環境が厳しいためアンダーウェイトにするものの、その中で特定のAI企業だけは業界をリードする強さがあるためオーバーウェイトにしておく、といった調整を行います。

つまり、機関投資家にとって個別株の選定は、大きな枠組みを決めた後の「最後の微調整」に過ぎないのです。リスクを適切に管理するためには、このトップダウン(全体から細部へ)のアプローチが不可欠となります。

相場の波を捉える「セクターローテーション」とは

なぜセクターごとの配分を考える必要があるのでしょうか。それは、経済の状況によって資金が有利なセクターへと移動する「セクターローテーション」という現象が起きるからです。

市場の集中:S&P500の時価総額変化をAI/エネルギー/その他に分解

市場の集中:S&P500の時価総額変化をAI/エネルギー/その他に分解
市場の集中:S&P500の時価総額変化をAI/エネルギー/その他に分解

2026年の年初からの時価総額の変化を見ると、4月末からAI関連銘柄が市場を強力に牽引してきました。しかし、6月後半に入るとAI関連の伸びが鈍化する一方で、「その他」のセクターがプラスに転じて上昇し始めています。

金利と景気が資金の流れを変える

この資金の移動の背景には、金利や景気の動向があります。

セクターローテーション:グロース(AI)からディフェンシブ・バリューへ(前半vs後半)

セクターローテーション:グロース(AI)からディフェンシブ・バリューへ(前半vs後半)
セクターローテーション:グロース(AI)からディフェンシブ・バリューへ(前半vs後半)

セクターごとの時価総額変化を年の前半(1月〜6月18日)と後半(6月18日〜7月6日)で比較すると、前半に大きく伸びていた情報技術(AI・ハイテク)が後半には最大のマイナスとなっています。

代わりに後半に大きく伸びているのが、ヘルスケアや金融といったセクターです。ヘルスケアは、景気が悪くなっても人々が医療を必要とするため、安定的に利益を出せる「ディフェンシブ(防衛的)」なセクターの代表格です。また、金融は金利が上昇する局面で利益が出やすいため、利上げ観測が高まると買われやすくなります。

「金利がここから上がっていくよって分かってきた時にそのテクノロジーセクターを超オーバーウェイトするのは結構危険なんですよね」

このように、金利が上がる局面ではハイテク株が売られ、ディフェンシブや金融、あるいは割安に放置されていたバリュー株(割安株)やシクリカル株(景気敏感株)にお金が動くという、教科書通りのセクターローテーションが起きています。

トレンドとサイクルの両輪を意識する

AI関連株が下がってきたからといって、AIの成長が終わったわけではありません。ここで重要なのが「トレンド」と「サイクル」を分けて考える視点です。

「トレンドとサイクルって両立してるんですよなのでAIのトレンドITの設備投資のトレンドは続いてるかもしれないけどやっぱりサイクルって絶対ある」

AIが社会に実装されていくという長期的な「トレンド」は変わらなくても、株式市場には必ず短期・中期的な資金の循環である「サイクル」が存在します。機関投資家はこのサイクルを強く意識して売買を行っているため、長期的な成長テーマであっても、マクロ環境の変化によって一時的に資金を引き揚げる(アンダーウェイトにする)ことがあるのです。

プロの資産配分に学ぶ!GPIFのポートフォリオ

では、個人投資家がアセットアロケーションを考える際、何を参考にすればよいのでしょうか。泉田氏が挙げるのが、日本の公的年金を運用している「GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)」の基本ポートフォリオです。

GPIF 基本ポートフォリオ(4資産に25%ずつ)

GPIF 基本ポートフォリオ(4資産に25%ずつ)
GPIF 基本ポートフォリオ(4資産に25%ずつ)

4つの資産に均等配分するシンプルな構造

GPIFは、国民の年金という絶対に大きく減らすことが許されない資金を運用しています。そのため、非常にディフェンシブで安定的な運用を目指した設計になっています。

その基本構成は驚くほどシンプルで、「国内債券」「外国債券」「国内株式」「外国株式」の4つの資産に、それぞれ25%ずつ均等に配分するというものです。債券と株式を半々、国内と外国を半々という、非常にわかりやすい分割になっています。

相場に応じた「乖離許容幅」で微調整

基本は25%ずつですが、相場の変動に合わせて柔軟に対応できるよう、各資産には「乖離許容幅」が設けられています。

国内債券は±6%、外国債券は±5%、国内株式は±6%、外国株式は±6%という幅が設定されており、さらに債券全体で±9%、株式全体で±9%というルールがあります。

例えば、株式市場が非常に好調で株式の比率を増やしたい場合、最大で59%(基本50%+許容幅9%)まで株式を持つことができます。ただし、日本株に強く強気であっても、国内株式の許容幅は+6%までなので、残りの+3%は外国株式で持つといった細かなルールによって、過度なリスク集中を防いでいます。

個人投資家がこれを応用する場合、安定を求めるならこの配分を参考にし、より高いリターンを狙ってリスクを取れる若い世代であれば、株式の比率を増やすといったアレンジが可能です。

個人投資家はどう活かす?投資信託と個別株の組み合わせ

機関投資家のようなセクターアロケーションを、個人投資家が実践することはできるのでしょうか。

米国の「セクターファンド」と日本の「テーマファンド」の違い

米国では、特定のセクターに特化した「セクターファンド」が非常に充実しています。テクノロジーやヘルスケアなど、明確なベンチマークを持ったファンドが多数存在し、個人投資家でもこれらを組み合わせることで、自分なりのセクターアロケーション(実質的なアクティブ運用)を行うことが可能です。

一方、日本の投資信託事情について、泉田氏は次のように指摘します。

「本当に僕が願っているのはテーマ型ファンドではなくてセクターファンドで面白いのがこの国に増えてくるともっと運用楽しくなるのになと思う」

日本では「AI関連」といった「テーマファンド」が主流です。テーマファンドは明確なベンチマークがなく、関連性が薄い銘柄が含まれることもあるため、パフォーマンスの評価が難しいという課題があります。

そのため、個人投資家が合理的に運用を行うのであれば、市場全体をカバーするインデックスファンドを「コア(中核)」として持ちつつ、自信のある個別株を「サテライト(衛星)」としてお小遣いの範囲で投資するという組み合わせが現実的と言えます。

ズームインとズームアウトの視点を持つ

最後に、投資において重要な視点の切り替えについて、泉田氏の言葉を引用します。

「基本的に個別の企業見るときはズームインだよね(中略)ただその会社が属してるセクターがどうかとかそのセクターが経済全体の中でどうかっていうのはやっぱりズームアウトして俯瞰して見ないと見えない」

個別企業を深く分析する「ボトムアップ」の視点(ズームイン)は大切ですが、それだけでは市場全体の大きな資金の流れを見落としてしまいます。

良い銘柄を集めたつもりでも、すべてが同じセクター(例えばハイテク株ばかり)に偏っていれば、金利上昇などのマクロ環境の変化で一斉にダメージを受けるリスクがあります。

だからこそ、機関投資家のように「トップダウン」で市場全体を俯瞰する視点(ズームアウト)を持ち、リスクを調整する意識を持つことが、投資をより深く、面白くするための鍵となるのです。

なお、本記事は投資の考え方を解説することを目的としたものであり、特定の銘柄・ファンドの売買や資産配分を推奨するものではありません。投資に関する最終的な判断は、ご自身の責任において行ってください。

参考資料

  • イズミダイズム独自の市場データ分析(S&P500 セクター別時価総額変化/yfinance・GICS分類、2026年7月6日時点)
  • GPIF「第5期中期目標期間における基本ポートフォリオについて」
  • YouTubeチャンネル「イズミダイズム」

※データは2026年7月6日時点。

免責事項

  • 本記事は一般的な情報提供のみを目的としており、特定の株式の購入や売却について助言や推奨するものではありません。
  • 本記事上の情報に起因、また関連して生じた損害や損失に関しては一切の責任を負いません。
  • 投資判断は最新の決算資料や市場動向などをご自身でご確認の上、自己責任で行ってください。
  • 株主優待の内容や条件などは変更される可能性があるため、必ず公式サイトでご確認ください。
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